選挙中に「女を使え」 負の連鎖、次の世代には残さない

聞き手・伊藤あかり
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徳島市長・内藤佐和子さん

 昨年4月の徳島市長選で現職を破り、36歳で史上最年少の女性市長となった内藤佐和子さん(36)。ジェンダーギャップ指数121位のこの国で若い女性リーダーが誕生したことに、国内外から注目が集まっています。一方で、本人は「“女性”市長として」の考えを求められることに違和感を持っているようです。

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 ジェンダーを意識し始めたきっかけは小学生の頃ですね。私の父は中小企業の経営者なのですが、「女だから、継がせない」と小学生の頃から言われてたんです。私は将来、社長になりたかったけれど、自分の家は継げないんだなとショックでした。

 父の言っていることの意味もわかるんです。機械をつくる仕事なので、「娘がケガをするリスクのある機械に触らせたくないし、現場に出られない人間はトップに立つべきじゃない」という思いからだったと思うんです。でも「女だから」っていう言われ方は違和感がありましたね。

 私は徳島から東大に進んだのですが、その時も周りから「そこまでの学歴いる?」と言われました。だけど、ある程度のキャリア、お金を稼ぐ力がないと、従属するような人生しか送れないとも思っていました。

 そう思えたのは、私が中高に通っていた学校の教えが大きかったですね。女性創立者の「女も独り立ちができねばならぬ」という思いを理事長から何度も聞かされていたので、自分もそうありたいとエンパワーメントされていました。

「女性市長だから」にもやもや

 一方で、私自身がジェンダーロールに縛られていると感じることもあります。

 私の母は「良いお母さん」で「良い妻」なんです。朝ご飯やお弁当はちゃんと手作り……ですとか。「そうなりたい、そうならなきゃ」と勝手に縛られていました。もちろん「どっちでもいい」というのは頭ではわかっている。でも「私はお母さんにちゃんとしてもらっていたのに、子どもに返せないのは申し訳ない」と思ってしまうこともあります。

 よくインタビューで「女性市長だからできたことは?」と聞かれるんですが、ちょっともやもやするんですよね。

 例えば、私は生理の大変さを知ってもらうために、副市長や部長の前でも「生理でつらい」と言うようにしています。でも、これが「女性市長だからできたことか」と言われると違うのかなと。男性市長だと確かに生理のつらさは実感できないかもしれないけど、あえて生理の話をしない女性市長もいるだろうし……。あくまで私だからやっていることなのかなと。

 「女性政治家だから」と期待されていることもあると思います。男性政治家に求められる政策は多様なのに、女性政治家に求められることは「子育て」に力点を置かれがちな気がします。子育て支援だけをやるのは首長としては公平じゃないですよね。様々な施策をバランスよくやるべきです。

 それから男性リーダーしか見慣れていないので、リーダーには「強さ」を求めがちな気もします。一方で、若い女性が「強さ」を見せると「生意気」と言われてしまう。

 「子育てとの両立は?」ともよく聞かれるんですけど、それも男性政治家にも同じ質問しているのを聞く機会ってほとんどないですよね。子育ては女性だけのものじゃないのに。

 もちろん、その質問に答えることがロールモデルとしての仕事だとも思っています。だけど、「女性だから」と期待されるのも、女性政治家の数が圧倒的に少ない証拠。次の世代の女性たちには、気負うことなく、自然体で政治ができるようになってほしい。

 私はジェンダーの話もしっかり発信していきたいと思っています。デリケートな問題なので、プラスな反応ばかりじゃありません。例えば、選挙中に「生理なので、ちょっと眠い」とつぶやいたら、「そういう発言はすべきじゃない」という声もありました。ほかにも、選挙中に「女を使え」と言われたこともありました。だけど、そんなことをしてまで勝ちたくなかった。

 なにより、ここで負の連鎖をとめないと、私に続く女性候補者・政治家に残すことになってしまう。だから、たとえマイナスの反応が大きくてもちゃんと伝えるべきだと思いました。

 ジェンダーギャップ指数121位。私は不名誉な数字だと真剣に思っています。政治分野で自分は何ができるのか、女性の政治家がどうやったら増えるのか、私にできることを実行していきたいと思います。(聞き手・伊藤あかり

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 1984年生まれ。徳島市出身。東大在学中に難病の多発性硬化症を発症し、家族や友人らとの交流をつづった「難病東大生」を2009年に出版。「徳島活性化委員会」を立ち上げ、地元を元気にするアイデアコンテストなどを手がけた。昨年4月の市長選で現職を破って当選、史上最年少の女性市長となった。

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 朝日新聞社運営のウェブメディア「かがみよかがみ」には、市長就任直後のインタビュー「『女』を使えって言われた、もちろん拒否!」(https://mirror.asahi.com/article/13298847別ウインドウで開きます)が掲載されています。

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