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 妊娠中でも、安心しておすしを楽しみたい――。そんな妊婦さんの願いを、街のおすし屋さんがかなえた。ネタに火を通した「加熱寿司(ずし)」だ。コロナ禍で苦境にあえぐ老舗にとっても、期待の一品となった。

 タチウオ、イカ、シャコ、穴子。一見、よくあるすしセットのようだが、よく見るとどのネタも生ではない。東京都江東区にある創業70年の老舗「やよい鮨(ずし)」が、1月下旬から販売を始めた「加熱寿司」(税込み1900円、テイクアウト1870円)だ。

 きっかけは、昨年12月末に台東区在住の会社員、渡辺愛さん(30)が発したツイートだった。「【妊婦さんもOK!お寿司(すし)セット】があったら、買いませんか?」。第1子を妊娠中の渡辺さんは、もともと大のおすし好き。しかし、一般的に免疫力が下がって細菌などに感染しやすい妊娠中は、生魚はできるだけ控えるよう言われている。

 それでも、「ダメと言われるほど食べたくなる」と渡辺さん。他のすし店で加熱されたネタを選んで食事をしたこともあったが、「火が通ったネタは少ないし、選ぶのも大変。本当に中まで火が通っているかも不安で、安心して食事はできなかった」。妊娠中にたまったすしへの欲求が、ツイートにつながった。

相談にのった3代目が動き出す

 反響は大きく、すぐに4千以上の「いいね」がついた。そこで、渡辺さんの友人の浅田友香さん(29)が、常連として通っていた「やよい鮨」の3代目・星名清明さん(54)に相談し、実現に向けて動き始めた。

 「妊婦さんがそんなにすしを欲しているとは知らず、驚いた」と星名さん。普段は生で使う食材に火を通すとボロボロと崩れたり、握りづらくなったりするため、蒸したり、湯引きしたりして工夫を重ねた。

 もともと店自慢の一品だった煮穴子のほか、焼いたタチウオやイカのしょうゆ漬け、ほっき貝など、9種のネタをそろえた。「そのネタならではの食感が残ってて感動した」と渡辺さん。販売開始後は、渡辺さんや浅田さんがSNSを通じて宣伝し、多い日には1日5人ほどから注文が入ることも。妊娠中の妻に遠慮してすしを我慢していた男性からも好評だという。

 コロナ禍で売り上げが激減していた星名さんにとっても、うれしい提案だった。「おかげで若い子たちが店に来てくれるようになった。妊婦さんはもちろん、小さなお子さんなど様々な事情で生ものが食べられない人にもすしを楽しんでもらいたい」と話す。

 加熱寿司の提供は3月末までの予定で、その後は状況を見ながら判断していくという。2日前までに要予約。問い合わせは同店(03・3631・0591)。(塩入彩)