男装の麗人?沖澤のどかさん振るタクト カギは教育

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聞き手 編集委員・吉田純子
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指揮者・沖澤のどかさん

 ベルリン在住の指揮者、沖澤のどかさん(34)は2019年、小澤征爾さんらが輩出したブザンソン国際指揮者コンクールで優勝し、一躍世界のひのき舞台に躍り出ました。しかし、国際的に注目される存在になってなお、「女性が指揮をする」ということを過剰に意識され、戸惑うことが少なくないと言います。属性による偏見や生きづらさを、異国の地で、沖澤さんはどうやって乗り越えてきたのでしょうか。

     ◇

 故郷の青森で、東京芸大への受験勉強を始めたころ、「へえ、女性の指揮者なんているの?」と驚かれることが多くて。そこで初めて珍しいことなんだと気付きました。オーケストラもなかったし、学校の音楽の先生も女性だったので、指揮の世界に女性が少ないということ自体を知らなかったんです。

 実際、「男装の麗人」みたいに言われるかと思えば、指導を受けたら「そんなんじゃお嬢様芸にもならない」「結婚して主婦になった方がいい」なんて言われてびっくりすることも。コンクールで優勝した時も「女性が勝つって決まってたんでしょ」とずいぶん言われました。ある女性の先輩が、雑誌で「美しすぎる指揮者」という特集を組まれているのを見たときも、目が点になりました。「なんでそこなの?」って。

 以前に比べると、周囲の意識も変わり、表面上はかなり状況が良くなってきているような印象はあります。とはいえ、いろんな国で仕事の交渉をしていると、いまだに「あそこのオケは女性指揮者は使わないよ」とか、「あの街は女性指揮者をなめているから行かない方がいい」などと普通に助言されたりします。表立って「ダメ」とはいわないのに、「そういう空気がある」みたいな言い方で。ああ、まだまだそういう感じなんだ、と思ってがっかりします。

 自分が持っている知識だけを根拠に、理解したつもりになって安心する。ジェンダーの問題は、好奇心の欠如をもとに、そんな風に思考停止しがちな現代社会のあらわれのひとつにすぎないという気がします。

 一方で、これはアメリカのオーケストラの昨今の傾向なのですが、「実力が同じくらいなら、白人より有色人種と女性を優先してとるべきだ」とする考えにも違和感があります。「あくまで実力第一」を前提にしないと、逆に男性と女性の互いの不信感を増幅させてしまうのではないかと。女性指揮者だけのコンクールみたいなものにも、私は反対です。見せかけだけ必死に女性を登用しても、根本的な部分は解決されないのではないでしょうか。

 劇場もオーケストラも組織であり、社会ですから、トップであるGMD(Generalmusikdirektor=音楽総監督)に女性が自ら就いて変えていくしかない。女性が増えた、コンクールで優勝したというくらいで、システムは変わりません。むしろ、現役で活躍している女性たちにスポットライトを当て、「差別してないよ」とアピールすることが、実際に中枢でいろんな物事を決めるのは男性という構図を強固にしてしまうのではないかという懸念があります。

 「女性指揮者」というカテゴリーを払い、自然に「女性の指揮者」と認識してもらえるようにするには、社会の意識を変えていく必要があります。民族とか性差とか、そういう垣根を溶かし、いろんな人々の心を直接出会わせる。音楽ってそもそも、そういうものじゃないですか。

 私たちの世代はいま、前の世代から残っている固定観念をはがすことに必死です。でも、ひとたびこびりついたものは、そう簡単にはがすことはできません。成長してから意識を変えるのは大変です。

 そうなると、やっぱりカギとなるのは教育しかありません。これは男性の世界、これは女性の世界という刷り込みを最初から与えない。自分が好きな世界を自分で感じ、自分で選びとる。これが自然な営みなのだという感覚を幼い頃に持たせることしか、現在の状況を変える方法はないのではないでしょうか。

 無理に活躍しなくたっていい。活躍しないと居場所をもらえないというのなら、それがそもそも間違っている。「これはこうしたもの」という自分勝手な思い込みで、他者を支配してはいけない。こういうことを、音楽を通じて子どもたちの精神の軸にすることができないだろうかと、常々考えています。

女性、アジア人、若手、小柄… 指揮台は私が属性から解放される場所

 怖いのは、実は若い世代にも、すでに古い感覚に毒されてしまっている人が多いということです。インターネットの影響もあるでしょう。最近も、とある若い世代の指揮者が「男性指揮者の方がオーケストラから良い音を出せる」と発言し、問題になりました。

 私はいま、ベルリン・フィル

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