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 【長野】戦争末期、川崎市から上伊那地域などに疎開した旧日本陸軍の秘密機関、通称「登戸研究所」。生物化学兵器(毒薬・細菌)の開発にもあたっていたとされるが、あわせてワクチン研究が進められていた可能性があることが明らかになった。飯島町に残っていた同研究所が使用したという机から、その痕跡とみられる金属片が見つかった。

 駒ケ根市で先月23日に開かれた登戸研究所シンポジウムで、農学博士の井上直人・信州大名誉教授(67)が発表した。

 井上さんによると、机の引き出しには仕切りがあり、底に銀色や青緑灰色の粉とクモの糸などを確認。昨年から2月にかけて粉を信州大の機関で元素分析したところ、塩素とアルミニウムで生成された人工的な金属片が多数認められた。

 「塩化アルミニウムを用いた製造実験などが行われていたと推察される」と井上さん。なぜ、神経毒の塩化アルミニウムだったのか。同研究所の研究員だった男性が所蔵していたドイツ語の専門書の内容などをふまえ、井上さんは、塩化アルミニウムが、ワクチンに加えることで効果を高める物質「アジュバント」の成分となることに着目したという。

 当時の飯島小学校に疎開したのが同研究所の第2科(化学関係全般)で、生物化学兵器などの研究開発にあたったとされる。井上さんは「生物兵器を『矛』とすれば、自分たちを守るワクチンやアジュバントは『盾』。わずかな粉の痕跡だが、ここで細菌戦に備えてのワクチン量産研究もしていたことが示唆される」。

 約30年前、この秘密機関の実態に迫ったのが、赤穂高校(駒ケ根市)平和ゼミナールの生徒たちだった。口を閉ざしていた元研究員らと交流を重ねて真実の扉を開いていった。シンポでは活動を引き継ぐ高校生も発表した。

 主催は市民ら有志による登戸研究所調査研究会で、井上さんもメンバーの1人。2019年の会による聞き取り調査でこの机を見たことから今回の分析に至った。「次の世代のためにも事実を掘り起こす作業を続けていきたい」と話している。(北沢祐生)