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 文化庁長官に日本音楽著作権協会(JASRAC)前会長で現在も特別顧問を務める都倉俊一氏が4月1日付で就く人事が、5日に閣議決定された。著作権法を所管し、著作権管理団体を指導・監督する文化庁のトップに、日本最大の著作権管理団体の元トップが就くことになる。いわば指導・監督される側が、指導・監督する側に回る人事で、極めて異例だ。

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 都倉氏とJASRACの関わりは深い。2001~10年に理事、10~16年に会長を務めた。会長退任後は特別顧問のほか、JASRACが設立に関わり、事務局を担うアジア・太平洋音楽創作者連盟(APMA)の会長を務めている。

 会長職はJASRACの「顔」だ。もともと著作権の保護期間は日本では作者の死後50年で、死後70年という欧米に合わせることがJASRACの悲願だった。都倉氏は延長を求める政府へのロビー活動に力を注いだ。その後、18年に著作権法が改正され、死後70年に延長されている。

 日本には、第2次世界大戦の戦勝国の作品を約10年長く保護する「戦時加算」が課せられている。この戦時加算の撤廃についても、都倉氏は実務のトップであるJASRAC理事長とともに、岸田文雄外相(当時)に「政策要望書」を提出するなど熱心に動いた。

 文化庁は、著作権等管理事業法によって、JASRACなどの著作権管理団体を指導・監督する立場にある。たとえば、団体が新たな徴収を始める際には、使用料規定を文化庁長官に提出する義務がある。また、文化庁長官には団体に業務改善命令を出したり、登録を取り消したりする権限が認められている。

 また文化庁は、作曲家や小説家ら作り手の権利の保護と、音楽や小説といった著作物を利用する側の自由の確保という、相反する利害のバランスを図る役割を持つ。JASRACは文字通りの「利害関係者」だ。

 JASRACは17年、ヤマハなどの音楽教室での指導時の演奏から著作権料を徴収する方針を表明した。これに対し教室側は、徴収に反対する約56万人分の署名を文化庁に提出し、著作権等管理事業法に基づく「文化庁長官裁定」を求めた。文化庁は18年、JASRACに対して徴収開始を認める「長官裁定」を出すと同時に、徴収に反対する教室への督促は控えるよう求める行政指導もした。当時の担当者は「中立」の立場を守ろうと腐心していた。

 萩生田光一・文部科学相は5日の閣議後会見で、「ユーザーの思いや権利者の思い、すべての皆さんに目配りができる長官になっていただけるのではないか」と述べた。だがJASRACは、権利保護の強化を訴訟やロビー活動によって主導してきた団体である。その元トップが果たしてユーザーに目配りできるのだろうか。

 都倉氏が長官に就任した後、文化庁は公正中立を守れるのか。関係者の利害が対立する際に現場の官僚がどれほど適切に対応しても、文化庁としての中立性や清廉さに疑念を抱かれるリスクがつきまとう。こうした懸念をどう考えるのか。政府は人事発令までに説明する責任がある。(赤田康和