姓違っても「絆薄まらず」 ペーパー離婚した夫婦の訴え

根本晃
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 8日の「国際女性デー」を前に、民法の夫婦同姓の規定が違憲と訴えた「夫婦別姓訴訟」に原告として参加した奈良県香芝市出身の大学准教授(家政学)の吉井美奈子さん(44)、吉井さんの夫で県内の公務員の谷正友(まさとも)さん(同)に聞いた。どんな思いで夫婦別姓を求めたのですか。

 吉井さんの父は化学研究者で、広島県出身。戦時中に大阪に移り、戦争や結核で家族を失った。奈良で暮らすようになって、子どもは吉井さんを含む女性3人。幼い頃から「女の子しかいないから、『吉井』が途絶えてしまうのは残念だ」と言われていた。

 「お父さんっ子だった」吉井さん。幼いころ、広島にある一族の墓に家族でお参りした記憶がある。吉井家の歴史を受け継いでいきたいと思っていた。

 吉井さんは2002年、中学校の同級生だった谷さんと結婚した。吉井さんは当時は大学院生。名字が変わると、それまでに自分が書いた論文が認知されなくなることを恐れた。同時に「途絶えさせたくない」と父の姓も守りたかった。

 吉井さんと谷さんは当初、事実婚も考えたが、親類の反対や税制上の不利益も考え、法律婚を選んだ。長男、次男が生まれ、いずれも谷姓となった。吉井さんも戸籍上は谷姓となったが、吉井の旧姓のまま、生活し、仕事をした。

 11年、吉井さんは民法の夫婦同姓の規定が違憲と訴えた「夫婦別姓訴訟」(15年に最高裁大法廷が合憲と判断)に加わった。原告の一人と知り合いで、誘われたことがきっかけだったが、「今変えないと変わらない」との思いがあった。1996年に法相の諮問機関の法制審議会が夫婦別姓を選べる民法改正案を答申してから10年以上が過ぎていた。

 提訴後、2011年11月に長女が生まれた。長女は通称として吉井姓で育てることにした。「きょうだいで名字が違ったら、かわいそう」という周囲の声もあったが、「やってみないとわからない」と思った。

 吉井さんは「仲が良いときは良いし、けんかをする時はする。他の家族と変わらない」。谷さんも「名字が違うからといって、それで絆が薄まることなんて本当にない。他の家族との違いを探す方が難しい」と話す。

 18年、吉井姓が長女のアイデンティティーになっているとして、通称の吉井姓をパスポートに併記するよう旅券事務所に訴えたが、かなわなかった。やむを得ず、長女の戸籍姓を吉井にするためペーパー離婚し、事実婚に切り替えた。

 9歳になる吉井さんの長女は「結婚したら相手と相談して名字を決めたい」と話している。現状は妻の姓を選択する夫妻はわずか4%。長女が自由に選択できるためにも、選択的夫婦別姓が認められるようになってほしい。吉井さんと谷さんはそう願っている。(根本晃)

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 夫婦同姓が法律で定められているのは日本のみとされる。国連の女子差別撤廃委員会は法改正するよう勧告している。

 内閣府の2017年度の世論調査によると「家族の名字が違うと、家族の一体感(きずな)が弱まると思う」と答えた人の割合は31・5%、「影響がないと思う」は64・3%だった。一方、別姓夫婦に2人以上の子どもがいる場合に「子ども同士の名字が異なってもかまわない」と答えた人の割合は14・9%、「同じにするべきである」と答えた人は58・3%、「どちらともいえない」は25・2%だった。

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男女格差が153カ国中121位の日本。生きにくさを感じているのは、女性だけではありません。だれもが「ありのままの自分」で生きられる社会をめざして。ジェンダーについて、一緒に考えませんか。[記事一覧へ]