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 新型コロナウイルスで生活が激変して1年余り。厳しい状況を訴える場もなく耐えている人は少なくないと思われます。それは世の中の制度や統計からは、見えなくなっている存在だからではないでしょうか。8日の国際女性デーを前に、ジェンダーに目をこらして「見えない存在」を考えます。社会はあなたを見ていますか?

「実質的失業」 女性103万人

 シフトが半分以下になったのに、休業手当をもらえていない女性の非正規労働者は100万人超――。野村総合研究所が1日、そんな試算結果を公表しました。新型コロナ禍の打撃は女性の働き手が多い飲食業などで深刻です。担当者は「支援からこぼれ落ちる『見えない存在』を可視化する必要がある」と話します。

 2月8~12日に20~59歳のパート・アルバイトの男女を調査。女性約5万7千人、男性約7800人が回答しました。女性で新型コロナ前よりシフトが減った人は29.0%。そのうち「休業手当を受け取っていない」と答えた人は74.7%にのぼり、4人に1人しかもらえていない実態が見えてきました。

 さらにシフトが半分以下に減った女性は全体の13.1%で、こちらも7割が休業手当を受け取っていませんでした。野村総研はこの層を、統計上「失業者」にも「休業者」にも入らない「実質的な失業者」と位置づけ、2月時点で103万人にのぼると試算。男性の43万人の倍以上となりました。女性だけを対象にした12月調査(90万人)より1割強増えています。

 休業手当を受け取れない働き手が自分で申請できる国の休業支援金もありますが、制度を知っている人は「実質的失業者」の半分でした。野村総研の武田佳奈・上級コンサルタントは「雇用への影響は少なくともあと1年は続く。経済的支援を必要としている人を確実に見つけて情報を届け、希望者には転職を促す支援も急務だ」と指摘しています。(高橋末菜)

ジェンダー視点の統計 不十分 内閣府の研究会に参加する大崎麻子さん

 コロナ下では飲食や観光業で働いていた女性が仕事を失い、自殺やDV相談も増えています。男女別のデータをしっかりとり、ジェンダー分析を行って、どういう人たちが脆弱(ぜいじゃく)な状況に置かれているのかを明らかにしなければいけません。

 日本ではこれまで、ジェンダー平等の視点が経済や労働、防災、インフラ、地方創生など、市民生活にかかわる多くの分野において不十分で、男女間の格差やニーズの違いは限られた分野でしか可視化されてきませんでした。例えば、国がコロナの経済対策として1人一律10万円を配った特別定額給付金は世帯主の口座に家族全員分が振り込まれる仕組みでしたが、全ての女性が受け取れたのかについてのデータはありません。問題が顕在化しないので人々の意識も啓発されず、政策も作られてこなかった。

 相談体制の拡充も急務です。劣悪な環境にいるのに「頑張れない自分が悪いんだ」と自分を責める人が少なくありません。自己肯定感が低く、社会から見えない存在になっていることにも気付いていない。「消えたい」といった抽象的な言葉から置かれた状況を分析し、支援につなげる人材を育てる必要があります。相談員も非正規かつ低賃金であることが多いため、待遇を改善し、メンタルヘルスにも予算をつけるべきです。現場の声をしっかり拾うことが、政策にもつながります。

 内閣府は昨秋に「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」を設置しました。エコノミストや女性問題の専門家で構成され、私も参加して必要な統計や施策に向けた報告書をまとめています。政策を作って終わりではなく、予算を確保し、モニタリングも続け、次の政策につなげていく。そうした循環を生み出すことが求められています。(聞き手・西村奈緒美)

日本型雇用のゆがみ 表れ

 労働政策を取材して10年以上になります。この間の課題は、結局、日本の雇用慣行、つまり日本型雇用のゆがみをどう解消するか、ということなのだと日々感じてきました。そして、そのゆがみは働く場におけるジェンダーの問題と裏表の関係にあります。

 ゆがみとは、長時間労働と正規・非正規の待遇格差です。日本型雇用には、①新卒一括採用②長期雇用③年功的賃金――といった特徴があります。学校を卒業して会社に入り、ジョブローテーションに従って様々な職種・職場を経験する。それにより職業能力が高まると考えられ、賃金も上昇していく――。もちろん、すべての雇用労働者がこうした対象ではありません。大企業の正社員、それも、ほとんどが男性でした。

 長時間労働や単身赴任をいとわない男性。家庭内で子育てや介護といったケアを担当するか、賃労働をしたとしても家計を補助する役割しか期待されない女性。日本型雇用は「男性片稼ぎ型モデル」と言われたりします。日本型雇用は女性を周辺化してきたわけです。

 周辺化された女性労働は、「女性は低処遇であっても構わない」という意識につながります。保育や介護など、主に女性が家庭内で無償で担ってきた労働が、公務労働になっても非正規で賃金が低いままなのは、こうした背景と無縁ではありません。公務が安定した働く場となることで女性の社会進出が進んだとされる北欧とは対照的です。

 雇用のあり方は社会保障や教育とも絡み合っています。個人の価値観や家族の形は多様で、パートナーとの関係もそれぞれに違います。日本型雇用には良さもあります。良さを生かしつつ、個人が自由な選択ができる社会をどう作っていくのか。雇用だけでなく、様々な制度や慣行を見直す必要性が高くなっています。(編集委員・沢路毅彦)

「誰が黙らされているのか」 名古屋市立大学准教授・菊地夏野さん

 日本は市場重視の新自由主義経済を推し進め、子育てや教育、介護福祉などの社会的再生産を行うセクターの公的支援をどんどん削っています。その結果、命に関わる仕事の大部分を女性が無償で引き受け、不安定な非正規で働かなければならなくなっています。

 その根底には、そもそも資本主義経済が、利益を生むために家庭や共同体など「非経済的」な無償労働を利用して成り立っているという構造的な特質があります。女性も競争に参入し、高い生産性を上げ、市場や国家に貢献することが目標だとするフェミニズムもありますが、この特質を持つ以上、高い地位につける女性はごくわずかです。

 昨年私が解説を書いた「99%のためのフェミニズム宣言」は、利益よりも命と社会的なつながりを優先する社会構造への転換を呼びかけ、女性間の格差を解消するための視点を提示しています。

 危機感を持つがゆえに、今すぐできることしかやれない、やらないと考える人がいますが、ジェンダー問題は社会構造の全体に関わるもの。女性を「男並み」にする女性活躍から離れないと現状の枠組みに回収され、同じ価値観を持った人や組織が再生産されてしまいます。

 批判をするなら代案を出せ、と言われがちですが、それでは何も言えなくなってしまう。そうではなく、「なぜこんなに苦しいのか」という疑問を他人とつながりながら考えていこうという呼びかけが世界中で起こっています。女性が抱えるさまざまな「生きづらさ」を共有しようという「ウィメンズ・マーチ」や「ウィメンズ・ストライキ」はそのための試みです。

 また、声を上げることは大事なことですが、それ以上に重要なのは、沈黙している人の言葉に耳を傾けることです。誰が黙らされているのか、ということに注目すべきです。(聞き手・西村奈緒美)

社会から無視、でも私はここに ■若者支援、ほとんどない ■人間らしい介護生活を

 アンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 

●氷河期世代の独身女性、置き去り

 女性の貧困について語られる時、そのほとんどは未成年の少女かシングルマザーに対するものです。子供のいない、若くもない成人女性の存在はいつも無視されているように感じます。私はいわゆる就職氷河期世代ですが、この世代は未婚率が高いにもかかわらず「子育て世代」という言葉でくくられて語られることが多いように思えます。就職氷河期世代の独身者というくくりで問題視される時でさえも、男性の問題が中心となり女性は置き去りにされているように思えます。子供のいない、独身の、未成年ではない女性も生きています。まだ生きています。どうか忘れないでください。たとえ社会から無視され、誰からも語られることがなくとも、私はここにいます。(東京都・40代女性)

●非正社員の若者に先は見えない

 新卒で入った会社が暴力的な行為を頻繁に目にする現場で、1年で辞めました。3年ほどアルバイトで生計を立てています。介助の仕事と、検針員の仕事をしていますが、どちらも生活するのに十分な給料はもらえません。福利厚生もなし。飲食店勤務だった彼氏もコロナの影響で失業し、一時的に私の家に住んでいますが、2人分の生活費を14万円ほどで賄うのは厳しいです。家賃、奨学金の返済、国保、年金、住民税など支払いは尽きず、日々ストレスを感じています。正社員でない若者に対する世の中の支援はほとんどなく、先が見えない日々です。また、エッセンシャルワーカーに感謝の意を示すだけではなく、もっと具体的な支援をしてほしいです。(東京都・20代女性)

●家族介護の人生 当たり前ですか

 高校生のころから介護をして何年も経っています。女性なので結婚すればいいと、就職もきちんと出来ませんでした。介護の話題が友達と出来ず、友達も無くし、恋愛も結婚もできませんでした。コロナでとても気を使う生活になり、以前にもまして負担が増えていますが、介護家族には何の支援もありません。家族はやって当たり前、年金で養ってもらっているからいいでしょと、人間らしい生活や人権も無視されています。介護家族への支援や注目がもっと欲しいです。(愛知県・50代女性)

●マイノリティーはいっそう窮地に

 パートナーと同居するレズビアンです。コロナ禍の影響はあまりありませんでしたが、レズビアンの友人は非正規も多く、生活が本当に大変そう。セクマイ(セクシュアルマイノリテイー)は親族も頼りにくいです。自分が、というか、マイノリティーは普段から社会的に弱い立場に立っているので、こういう時いの一番につらい目に遭いやすい。(愛知県・40代女性)

●女性相談の仕事失った

 20年ほど公的機関で女性の相談の仕事をしてきた。初めの頃、仕事は話を聞いて生活保護につながらないようにすることと言われたり、雇用保険が付かない範囲でと言われたりした。公的機関の指定管理で民間委託が増えると個人事業主扱いに。管理者が5年で代わる不安定な働き方。研修や資格を取っても時給は低い。エッセンシャルワーカーで出勤せざるを得ない。同じ女性の力になりたいとやりがい搾取と思いながらもやってきたが、管理者が代わって失業。国は女性やマイノリティーの問題にまともに取り合わないことでどれだけたくさんの損失をしているのか、海外は試算してその重要性を知っている。マスコミもぜひ目を向けてほしい。(神奈川県・60代その他)

     ◇

 性的少数者や障害のある人、外国人など、それぞれ個別の問題として多くの女性を取材してきました。でも、よくよく聞いていくと「女の子だから」という理由で教育の機会が十分に与えられなかったり、「女性だから」とチャンスを奪われたりしている。ジェンダーという視点で見るとつながる点があると気付きました。レズビアンで外国籍、という女性は「ダブルマイノリティーは本当に生きにくい」と話していました。

 「見えない女性」は政策課題に位置付けられておらず、制度からもれてしまっている人たちです。追い込まれた状況にいて、声を上げることがままならない当事者が少なくありません。身近なツールを使った情報提供やプッシュ型の支援の必要性が指摘されますが、既存の枠組みを疑ってみるような想像力も求められているように思います。(西村奈緒美)