韓国出身の美術家が刺繡で描く モノクロの「普通の日」

田中ゑれ奈
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 韓国出身の美術家・YU(ユ) SORA(ソラ)は、白い布と黒い糸を使って「日常」を写し取る。兵庫県尼崎市のあまらぶアートラボ「A-Lab」(06・7163・7108)で、展覧会タイトルと同名のインスタレーション「普通の日」を制作した。

 壁も床もソファもカーテンも、全てが真っ白な部屋。モノの輪郭線は黒い糸で縁取られ、ペンで描いた絵のように見える。よじれた毛布のしわや掛け時計の数字、積まれた本や雑誌の背表紙の文字まで、黒い刺繡(ししゅう)で再現されている。糸の端はほつれて絡まりながら垂れ下がり、鑑賞者がそばを通ると少し揺れる。

 床に置きっぱなしのアマゾンの段ボール箱や宅配ピザの空き箱は、コロナ禍を意識させるが、以前からつくっていたモチーフなのだという。「私がつくるものは変わってないのに、世の中の状況によって違う意味を持つこともある」と、会場で流れるインタビュー映像の中でYUは語る。

 薄い綿に重ねた布に刺繡を施す作品群もある。「普通の日」はシャツや靴下はベランダに干され、「雨の日」は部屋干しされる。作家が尼崎の町を歩いて風景の断片を描いたドローイングには、スーパーの裏に積まれていそうなプラスチックケースや道路標識の裏側。わざわざ意識しないだけで、誰の身近にもある「日常」だ。

 東日本大震災や韓国の旅客船セウォル号沈没事故を経て、日常をテーマにした作品をより「切実につくるようになった」という。モノクロで紡がれた風景には、見る人それぞれの普通でいつかは失われる日常が重ねられていく。

 31日まで、火曜休み。(田中ゑれ奈)