パプリカ流れる野球教室 三島南部員は憧れのお兄ちゃん

戸田和敬
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 「ボールくださいっ」。富士山を間近に望む裾野球場(静岡県裾野市)に、子どもたちの元気な声が響いた。「惜しいね。よく狙って」。長椅子に置かれた的をめがけて夢中で軟式球を投げる小学生に、高校生が笑顔でアドバイスを送る。

 2月21日午後、第93回選抜高校野球に初出場する三島南高校野球部が主催する野球体験会が開かれた。新型コロナウイルスの感染拡大で自粛を余儀なくされ、2カ月ぶりの開催だった。この日は、待ち焦がれた幼稚園から小学校低学年までの約20人が参加した。

 まずは子どもにも大人気のヒット曲「パプリカ」に合わせて準備体操。高校生と子どもがペアを作り、一緒に体と心の緊張をほぐす。続いて4グループに分かれ、テニスボールや軟式球を使って、打ったり、投げたりするのを楽しんだ。

 幼稚園年長の古屋結翔(ゆいと)君は「ボールが飛んでいくのがうれしかった」。ボールを打つと、バットを握ったまま部員のお兄ちゃんを追いかけるように一生懸命走り、ベースを一周して生還した。ボールを8回投げて的に1球当てた夏目羽琉(はる)君(小2)は「倒せたのがうれしくて、(野球が)好きになった」とうれしそうに話した。

 同校野球部は2014年から、地元の保育園児らを対象に体験会を開いている。稲木恵介監督(41)が自分の子どもが通う保育園の園長に相談したのがきっかけだ。「野球人口の減少は切実。野球をやりたいと思う子が少しでも増えたら」という思いだった。

 先生役として園児らと一緒に遊ぶのは部員たち。クマの絵を描き、ストライクゾーンをくりぬいた木枠にテニスボールを投げ込むゲームを考えた。糸でつるしたテニスボールを打つ遊びもある。その後にスタートする日本高野連の「高校野球200年構想」を先取りしたような活動だった。

 野球部は次第に地域住民から慕われるようになり、「お兄ちゃんたちが試合に出ている」と球場に駆けつけてくれる子どももいるという。そんな中、昨秋の静岡県大会準々決勝で強豪・静岡に3―1で勝利。県4強という実績と地域貢献活動が評価され、21世紀枠で初の甲子園出場を決めた。

 「自分たちが憧れの存在になれば、野球をやる子も増える。甲子園で楽しくプレーする姿を見てもらいたい」。伊藤侍玄(じげん)主将(2年)は言う。ふだんは全体練習が週1日だけ。それ以外は3グループに分かれ、個々の基本技術を高めてきた。タブレット端末でスイングスピードや軌道を測るなど、ICT(情報通信技術)も活用する。

 色んな面で時代を先取りしてきた「普通の県立高校の生徒たち」(稲木監督)が、大きな夢を実現させた。(戸田和敬)