急逝の息子を短編に 筒井康隆さん、コロナ禍に死を問う

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上原佳久
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 86歳にして最前衛――。作家、筒井康隆さんの新作『ジャックポット』(新潮社)は奔流のような言葉によって、新型コロナによる大勢の死、そして早すぎた一人息子の死を描き出す。「メメント・モリ(死を忘れるな)」のメッセージがこもる私小説とも読める短編集について、コロナ禍のためメールでのインタビューに応えた。

 〈マッサージ、テーブルチャージ、トリアージ。わしが感染したら後期高齢者で肺気腫。いちばん先にトリアージ〉

 表題作はラップ・ミュージックのライム(韻)を刻むように、洒落(しゃれ)や地口を縦横に駆使。シュルレアリスムの自動書記まで取り込んだ疾走感のある文体で、まるで望まぬ災厄の「ジャックポット(大当たり)」を引いてしまったようなコロナ禍の狂騒を描いた。

 「小生、もう歳(とし)ですから、コロナはさほど怖くありません。むしろ若い人たちや壮年の元気な人が、こんな時にもかかわらず規制を無視した夜の飲食店に溢(あふ)れているのを見て、もう笑うしかありません」

 コロナ禍においてなお、死が人ごとのような現代とは異なり、少年時代は死がもっと身近にあった。

 出征した兵士は〈白木の箱に入って〉故郷に帰り、大阪・梅田の地下道には餓死者が横たわっていた戦後の記憶。「ダークナイト・ミッドナイト」では、そんな死を巡る個人史をラジオのDJ風につづった。

 〈お前さんの息子や孫の方が早く死ぬかもしれない、いつ来るかわからないからこそ死なんだってね〉

後半では筒井康隆さんのメールインタビューを一問一答で紹介しています。

 そう書いた2年後の昨年2月、長男の伸輔さんを食道がんで亡くした。51歳だった。筒井さんが2012年7月から朝日新聞に連載小説「聖痕(せいこん)」を書いた際には、伸輔さんは挿絵として蜜蠟(みつろう)画を手がけた画家でもあった。

 巻末の「川のほとり」は私小説風の一編。主人公の〈おれ〉が夢の中で、亡くなった息子の〈伸輔〉と再会する。

 死後の世界を否定する〈おれ〉は三途(さんず)の川を思わせる岸辺に息子を見つけると、〈これはおれの見ている夢なのであろう〉。そう自覚しながらも、その姿が消えてしまわないよう、懸命に話しかけようとする。

 「あくまで創作ですから、実…

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