名も知らぬ人から「水溶液」 楽になろうと飲んだ校長

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森下友貴
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 車を運転中、対向車にぶつかって死にたかった。仕事の重圧から逃げたかった。ネットで知り合った人物から渡された「水溶液」を飲むと、気持ちがすっと楽になった。「まじめ」「責任感が強い」。そんな評判の校長が人生を暗転させる始まりだった。

 被告(55)は2020年12月、兵庫県内の自宅で覚醒剤1袋を所持したとして覚醒剤取締法違反容疑で現行犯逮捕された。現職の小学校校長だった。その後の捜査で、覚醒剤の量は約1・6グラムとわかり、所持と使用の罪で起訴された。

きょうも傍聴席にいます。

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 今年2月19日。神戸地裁尼崎支部であった初公判に被告が出廷した。上下黒っぽいスーツ姿で、白髪交じりの黒髪。視線は真っすぐで、落ち着きを感じる。

 起訴状が読み上げられ、被告は「間違いありません」とはっきりと答えた。

 被告が校長を務めた小学校は、日本海に面したカニ漁で知られる町にある。現職校長の逮捕に、町の教育委員会は揺れた。

 「保護者からの信頼が厚い」「まじめで責任感が強い」「丁寧に人の話を聞く」「部下に慕われていた」。逮捕後、町教委の聞き取りに、同僚たちは口々にそう答えたという。

 検察側、弁護側双方の主張や尋問で、被告が覚醒剤に手を出した経緯が明らかになった。

周りからの期待に応えようと

 被告は大学卒業後の1989年から小学校の教員として働き始めた。いくつかの小学校や県教委などとの異動を繰り返してキャリアを積んだ。2017年4月、町教委の課長に就いた。51歳だった。

 仕事は、学校教育についての指導業務や人事、初めて議会対応や予算にも携わった。民間保育所の統合をめぐって実質的な最終権限者になった案件もあった。

 休日も家で仕事をこなし、出張に追われた。弁護人は「町の教育行政を実質的に1人で切り回した」と評し、年上の部下もいたという被告に相談相手はいなかったと主張した。

 弁護人「仕事へのプレッシャーがあったか」

 被告「周りの人たちから、何をしてもきちんとやる、どんなことも解決することを期待された。応えたい一心だった」

 17年夏。被告の生活に異変が生じた。

■「甘えてはだめだ」…

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きょうも傍聴席にいます。

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事件は世相を映します。傍聴席から「今」を見つめます。2017年9月~20年11月に配信された30本を収録した単行本「ひとりぼっちが怖かった」(幻冬舎)が刊行されました。[記事一覧へ]