注目の震災ドキュメンタリー映画 あの監督が撮ったのは

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林るみ
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 この10年間、東日本大震災を描いた多くのドキュメンタリー映画が作られてきました。震災の記録と記憶の共有、継承はどのようになされてきたのでしょうか。震災ドキュメンタリー映画に詳しい識者に作品を紹介してもらいながら、話を聞きました。

 山形国際ドキュメンタリー映画祭で東日本大震災特集を手がけてきた、仙台市の「せんだいメディアテーク」学芸員の小川直人さんによると、震災のドキュメンタリー映画は2015年までに400本近くが作られたという。「当初は甚大な被害を直接に伝える映像を取り込んだ映画が目立ちましたが、徐々に、時間をかけて、マスメディアが捉えきれないミクロの視点で、個人の物語を描く作品が増えました」

 近年は、原発事故による放射能被害、かさ上げや高台移転による地域共同体の喪失、再構築に翻弄(ほんろう)される個人を描く作品が増えた。年月を経てこそ見えてくる問題を捉えた作品が生まれているという。

注目の若手映像作家たち

 注目したいのは、若手の映像作家が次々に登場してきたことだ。現在は商業映画で活躍し、今年3月、ベルリン映画祭で銀熊賞を受賞した濱口竜介監督(1978年生まれ)、民俗学的な視点から被災地を撮る遠藤協監督(80年生まれ)、宮城県南三陸町波伝谷(はでんや)の人々を撮り続ける我妻和樹監督(85年生まれ)、震災時、東京芸術大の同級生のアーティスト瀬尾夏美さん(88年生まれ)と共にボランティアとして被災地に移り住んだ小森はるか監督(89年生まれ)――。

 映画制作者の対話集「災害ドキュメンタリー映画の扉」(新泉社)の編者で、東北大学北アジア研究センター学術研究員の是恒(これつね)さくらさんはこうした若手映像作家の立ち位置を評価する。

 「津波などで破壊された町をどう映すかはナイーブな問題ですが、正義感だけではなく、何を記録し公開するべきかを自問し続けている。自分たちがまず何をすべきかを考え、被災者と共に記録を残し、映画を作っていく姿勢が見えます」

 是恒さんは被災地に古くから伝わる民俗文化をとりあげた作品にも注目する。「過去に何度も大津波に襲われても人々をその地につなぎとめているもの、精神の根源にある光景を記録し、後世に伝えようとしている。物事は何百年単位で考える必要があるという視座を与えてくれます」

 ドキュメンタリー映画はミニシアターで一定のシェアをもつようになったが、市民が映像を配給会社から借り、学校や地域の集会場などで開く自主上映会も広がっている。とくに震災に関する映画は、製作者もホームページなどで自主上映会開催を積極的に募ってきた。コロナ禍でこの一年は多くが中止せざるをえなくなったが、オンライン配信なども始まっている。

震災ドキュメンタリーの秀作を紹介

ここからは、震災ドキュメンタリーの秀作とされる作品の数々を、小川さん、是恒さんの案内で紹介していきます。鑑賞のガイドとしてご活用ください。

震災ドキュメンタリー作品紹介

◆「311」(11年、福島・宮城・岩手)森達也・綿井健陽・松林要樹・安岡卓治

(以下、映画タイトル、製作年、主な撮影地、監督)

 東日本大震災直後、被災地に入った4人のドキュメンタリストが現実を前にうろたえる自身の姿も映し、震災を撮ることの意味を問う。「この作品で、震災ドキュメンタリー映画や報道の倫理を考えさせられた制作者は多い」と小川さん。DVD発売中。

◆東北三部作「なみのおと」「なみのこえ 新地町/気仙沼」「うたうひと」(11・13・13年、岩手・宮城・福島)酒井耕・濱口竜介

 東京から被災地に入った若い映像作家2人は被災地の光景はほとんど撮らず、人々の対話と口承を記録。国際的に評価される濱口監督の原点が見える作品。「震災後、生き残った人々は使命のように言葉を紡いだ。人々の『語るさま』の力を見せつける作品」(小川さん)

◆「フタバから遠く離れて」(…

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