スズキ・ソリオ試乗 日本の家族に愛される会長御用達車

北林慎也
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 スズキの小型ハイトワゴン「ソリオ」が昨年12月に全面改良した。同社の小型車としては最も台数を売るベストセラー。4代目となる新型の出来栄えを試乗で探った。

 ソリオは、軽ハイトワゴン「ワゴンR」の車幅を広げた派生モデルをルーツとする、高い車高が特徴の小型ハイトワゴン。フロント周りの造形の違いによって、標準車と若者向けカスタム仕様の「バンディット」がある。軽自動車からのサイズアップと中型車からのダウンサイジングという、双方からの乗り換え需要の受け皿として販売台数を増やしてきた。

 4代目は先代のプラットフォームをベースに、堅実な小型ミニバンの路線を継承。両側スライドドアや車内ウォークスルーなどの利便性を維持しつつ、快適性と安全性能の向上に注力した。

 「スズキの小型車としては初」という装備が多いが、軽が主力のメーカーなので当然だろう。先進装備もプラットフォーム開発も、より小さく安く作って組み付けなければならないという厳しい制約がある軽から先行させる。

 そのため、小型車に導入される時点ではおのずと、低コストでこなれたものになっている印象だ。たとえば、ヘッドアップディスプレーは軽スーパーハイトワゴンの「スペーシア」で採用済みだが、スペーシアのそれよりも視野角が広く、頭を上下させても速度の数字が見切れにくい。

 一方で、ライバルメーカーがこぞって軽にも採用を始めた電動パーキングブレーキは見送り、さらに先代途中で投入した高価なストロングハイブリッド車(HV)を廃止し、簡素で安価なマイルドHVとガソリン車にラインアップを集約した。相変わらず、豪華仕様の恩恵と価格上昇との費用対効果の見極めにシビアなメーカーでもある。

親御さんは助かる、予約ドアロック

 優秀なファミリーカーの条件は、運転していてストレスがない、そして後席の主(自分の子どもと親、あと義理の親)から文句が出ない、というのに尽きる。

 運転中のストレスという点では、日常使いで目立った不満は無い。高い乗車位置と、見切りの良い大きなガラス窓、5ナンバー枠を使い切らない抑制された車幅のおかげで、取り回しに神経を使わずに済む。ターボ付きのような力強い加速はできないが、マイルドHVシステムの最小限のモーターアシストによって、信号待ちからの発車は静かでスムーズだ。ただ、左足を置くフットレストが無かったりシートのクッションが薄かったりするため、長距離を走ると疲労が大きいかもしれない。

 一方で、後席の足もとは広くて快適そのもの。サーキュレーターのおかげで冷暖房の効きも良い。リアサスペンションは簡素なトーションビームだが、上質な部材をおごったというブッシュ類や取り付け剛性の高さのおかげで、乗り心地は及第点のレベルにある。

 ほぼ唯一の大きな不満は、後席中央のヘッドレストが無いこと。シート分割や可倒などレイアウトの自由度を制約してしまうのを不採用の口実としているが、大切な家族や身内を乗せる後席の安全性には最大限の配慮をしてほしい。カーテンエアバッグが全車標準で備わるように改善されただけに、5人乗車時の配慮の手落ちは残念だ。

 ただそれでも、通学・通院の送迎や夕食の買い出しなど、短距離を家族で使い倒す分には最高ランクのファミリーカーだろう。

 小さな子どもを立たせて着替えができ、チャイルドシートに座らせたら降りずに後席から運転席に戻れて、荷室を広げれば自転車も積める。かゆいところに手が届く、車内各所にこれでもかとちりばめられた大小の収納スペースもありがたい。

 さらに、閉め切る前に予約ロックを済ませて車両から離れられる電動スライドドアは、駐車場でせわしなく動き回る子どもから目を離しにくい親御さんにとって、地味ながら最も恩恵を感じる装備のはずだ。

「中小企業のおやじ」が選んだ一台

 こうした行き届いた設計が評価されてか、昨年12月の発売以降、セールスは好調だという。そしてその間、スズキにとって大きな転機があった。91歳の鈴木修会長が、今年6月をもって退任する人事が発表された。

 おそらくは、このソリオが修会長のもとで最後の新型車となる。修会長自ら、このソリオを会長車として愛用してきた。昨年来、首長や議員がトヨタ・センチュリーを公用車に使うことの是非を巡る議論がかまびすしいが、少なくとも「中小企業のおやじ」を自認するVIPにとっては、自分が後席に乗るショーファードリブンカーはこの大きさで十分だということだ。もちろん、自社で製造するクルマで最も広い、というのが一番の理由ではあるだろうが。

 ともかく、修会長の経営哲学が端的に現れた、堅実で奇をてらわない設計思想の優等生な一台ではある。

「ソリオギア」を作ってほしい

 新型ソリオの質実剛健な正常進化。こだわり要素と割り切りの取捨選択のバランスが絶妙で、安くて気が利くクルマ作りはいかにもスズキらしい。こうしたものづくりを修会長のもとで地道に、長年にわたって続けてきた結果が、巨大グループを向こうに立ち回る世界有数の小型車メーカーへの躍進だろう。

 ただ、ここまで完成度が高いと、クルマとしての個性や色気といった、ファミリーカーではあまり重視されない要素も求めたくなる。真面目でプレーンな標準車でも、チョイワルなクール顔のバンディットでもない、ユニークでワイルドなキャラクターが欲しいところだ。

 もしも、スズキのディーラーでソリオを前に「もうちょっと楽しげなクルマが欲しい」と言ったらおそらく、似た車格のSUVである「クロスビー」や「イグニス」を提案されるだろう。ただ、ソリオの広さと使い勝手は捨てがたい。

 そこで、スペーシアにアウトドアRVテイストの派生モデル「スペーシアギア」があるように、スキン交換でワイルド感を強調した仕様があれば、より購買層の間口が広がるのではないか。ぜひとも、バンディットに続くソリオ第3の選択肢「ソリオギア」の登場をお願いしたい。(北林慎也)