地方の男の子を世界へ…韓国、弱小エンタメ事務所の戦略

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ソウル=神谷毅
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 BTSがシングル曲「Dynamite」でグラミー賞の最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス部門で受賞を逃したことに、ソウルに住む中学3年のキム・シオンさん(15)は「世界的な外国人歌手を評価してくれなかったなんて。残念」と語った。

 キムさんは「アーミー」と呼ばれるBTSの熱烈なファン。BTSの曲を聴き始め、まず歌詞に心を動かされた。「作詞者を調べてみると、メンバーたちだったんです。『子供たちに勉強だけを強要するのが正しいことなの?』なんていう歌詞もあり、共感できる言葉が多いんです」

 BTSはキムさんが世界とつながるきっかけも作ってくれた。BTSを通して韓国文化に関心を持った国外のファンからSNSで英語で質問を受け、答えている。「BTSには今後も自分たちのやりたい歌を楽しく歌ってほしい」とメンバーにエールを送った。

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 韓国の地方出身の男の子たちが世界のスターへ。これを成し遂げたのは、かつて弱小芸能事務所と呼ばれた「ビッグヒットエンターテインメント」だ。

 韓国では「少女時代」のSMエンターテインメント、「NiziU」で日本でも知られるJYPエンターテインメント、「BLACKPINK」が所属するYGエンターテインメントの大手3大事務所所属でないと、アイドルは成功できないといわれてきた。

 そこでビッグヒットは大手とは差別化を図ることに力を入れた。メンバーそれぞれの個性あふれる姿を自社制作のバラエティー番組にしたり、早くからユーチューブを積極的に活用したりした。SNSでファンと積極的に交流する機会も早い時期からつくった。

 昨年10月にビッグヒットは韓国で上場し、時価総額は一時1兆円を超えた。パン・シヒョク代表は「世界最高のプラットフォーム企業として力強く進む」と宣言。今年2月の会社説明会では、BTSメンバーが歌などに込める世界観をもとにしたドラマの制作やゲーム事業について発表。BTSというコンテンツを多様なプラットフォームで利益に結びつける戦略を描く。近く社名を「HYBE」に変更する予定で、事業拡大に伴って企業イメージを再構築する狙いがあるようだ。

 メンバーの歌やダンスなどのパフォーマンスの魅力でファンの心をつかむことは当然として、ビッグヒットが強調するのが「お客様は神様」の精神だ。これまでの芸能事務所はファンをアーティストに「ついてくる存在」とみなす傾向が強かったとすれば、ビッグヒットはサービスを提供する「顧客」としてアプローチする傾向が強いと、専門家は指摘する。

 例えば、韓国で開かれるBTSのコンサート会場では、入場する際や限定グッズ販売所に並ぶ長いファンの列はみられない。チケットを購入するスマートフォンのアプリで出入り口や販売所の待ち時間がリアルタイムで分かるため、並ぶ必要がない。顧客重視という差別化の努力には、SNSによるファンとの交流も含まれる。ビッグヒットの幹部は韓国メディアの取材に「ファンが自分の大好きなスターと接することより大事なものはない」と語る。

後半は韓流の「持続可能性」について、レポートします。

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