生で食べられるマサバ「お嬢サバ」 岩美町で陸上養殖

矢田文
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 血合いの深みのある赤に透き通る白みがかった身。皮の部分は青く光りつやつやとしている。脂はしっかりのっているのに、こりこりとした食感もあり食べ終わりはすっきりとした印象。なるほど、これが生のサバ。鳥取県岩美町で養殖されるブランドサバ「お嬢サバ」は、安心して「生」で食べられるのが売りだ。

 世界ジオパークに認定されている青の濃い海に面する網代漁港の陸上に、直径8メートルのコンクリート水槽9基が並ぶ。国内唯一の商業用マサバの陸上養殖だ。記者の身長ほどある水槽をのぞき込むと、背中の唐草模様が愛らしいサバたちが反時計回りにぐるぐると回って泳いでいる。

 サバの陸上養殖は、県栽培漁業センターが、海上養殖に適する湾の少ない鳥取でもできる養殖として2012年度から研究を始めた。そこへJR西日本が事業化を持ちかけ15年6月から共同研究を進め、その2年後に商業化に向け陸上養殖センターが設置された。

 生で食べられる根拠は、アニサキスなどの寄生虫が付きにくい環境で育てていることにある。養殖センター長を務めるJR西日本の吉村忠男さん(59)によると、主な要因は、完全養殖の稚魚を使う▽生エサを使わない▽地下海水を用いる、の三つ。地下海水とは海水が浸透した層からくみ上げる海水で、砂など自然の要素がフィルターの役目を果たし、水が濾過(ろか)されて寄生虫が混じることがほぼない。

 生食という安心だけでなくサバそのものの味わいを出すことにもこだわる。出荷1週間ほど前になると、別の水槽に移しエサを与えなくする。そうすることで食卓に上った時に、身にエサの臭みなどが残らないという。

 反時計回りで泳ぐのにも理由がある。水槽内に細かい気泡の空気を送り時計回りの水流を生み出している。サバの性質なのか水流に逆らって泳ぐため、運動量も増え、エサをたくさん食べ、しっかり身のついたサバに育つのだという。

 養殖はまもなく5シーズン目を迎える。毎年5月ごろに約3万匹の稚魚を仕入れ水槽に放す。1年~1年半ほどで出荷基準(約300グラム)に育つ。ただ、出荷までに至るのはこのうちの半数程度だという。

 排出物による水質の悪化や水温の変化、人間からすれば微小な変化でも水槽内の魚にとっては生死を左右する。センターに来るまでは駅員で、サバのこともよく知らなかったという吉村さんは「命を育てるって本当にむずかしい」。試行錯誤は続いている。

 お嬢サバは関西を主に、首都圏や県内などに出荷されている。「出荷までたどりつけない子もいる。大事に育ててきた命だからこそ、きれいに盛り付けて、しっかり食べてもらいたい」と吉村さん。

 陸上養殖事業は、天然資源が減る中で注目が集まっている、全国的にもまだまだ新しい取り組みだ。直接、海とつながる海上養殖に比べてもエサの食べ残しなどの負荷をかけず、環境にも優しいという。(矢田文)

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 鳥取県米子市のANAクラウンプラザホテル米子の日本料理「雲海」では県外の客に地元の特産品として知ってもらおうと昨春からお嬢サバの提供を始めた。ハリハリ鍋(税込み1815円)はかつおだしに、生身をそっとくぐらしていただく。料理長の加藤保正さん(60)は「サバ料理というとしっかり火を通すものが主流だが、お嬢サバはサバの食べ方も広がり、安心して食べられる」。