あえて見せた暴力的プレー Jリーグが配った映像の意味

吉田純哉
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 Jリーグは今季開幕に合わせ、ある映像を各クラブに配布した。9分ほどに編集されていて、目を覆いたくなる場面がいくつも収められている。「必ず見るように」と添えた。

 目的は、この映像を反面教師にして、暴力的なプレー、見聞きするに耐えない抗議をなくすこと。Jリーグの原博実副理事長は「見るのも嫌だろうけど、今回はあえて見せた」と語る。

 ある選手は競り合って倒れ込んだ相手の腹を、足の裏で思い切り踏みつける。別の選手はボールのない場面で相手の顔面をひじ打ちする。そんな場面が収められているという。

 退場もしくは警告に値する暴力的なプレーだけではない。審判への執拗(しつよう)な抗議もある。

 「どこを見てんだよ、レフェリー」「今のなんでファウルじゃねえんだよ」。判定に対してピッチ脇から怒鳴り散らしたり、ペットボトルを地面に投げつけたりする監督の姿もある。主審を威圧的に取り囲んだり、試合後も食い下がって抗議したりする選手も映っている。

 コロナ禍だからこそ浮かび上がった課題でもある。

 観客数の制限で、スポーツ動画配信サービスDAZN(ダゾーン)への需要は高まる。悪質な反則は何度でも再生できる。観客は声を出すことを制限され、歓声が響かないスタジアムでは、選手らの声がよく通る。Jリーグにも「汚い言葉を聞きたくない」という批判が寄せられていた。

コロナ禍で浮かび上がった課題

退場処分を経験した監督は大いに反省し、日本代表選手は試合前のひと工夫で対応しようと試みています

 原副理事長は言う。「激しさと汚さ、異議と暴言は違う。リーグ全体の価値を上げるためにも怖がらずに踏み込んだ」。異例の試みだった。

 審判とのやりとりは意識一つで変わる。

 清水エスパルスに今季新加入したGK権田修一は試合前に審判の名前と年齢を必ず確認する。昨年までプレーしていたポルトガルリーグで、選手たちは審判を「レフェリー」ではなく、名前で呼んでいた。「『さん』付けして呼ぶだけで印象は違う。審判も人間なので感じ方が変わるはず」

 主将として、アピールしなくてはならない局面もある。「サッカーは人が裁くスポーツ」。判定を確認したり、意図を伝えたりするにも、コミュニケーションが大切だ。審判団の最年長であれば副審にも声をかける。抗議することに心を奪われ、自分を見失い、反則を犯す選手を見てきたからこそ、問題意識を持っていた。

 サンフレッチェ広島城福浩監督は今季、審判との向き合い方を変えた。

 昨年12月惜敗した昨季ホーム最終戦。2度の異議で退場処分となったことがきっかけだ。「決して褒められることではない。審判と対決してもチームに何のプラスにもならない」と反省した。「チームのパフォーマンスが良くなるように、エネルギーは使わないといけない」

 今季から本格導入されたビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の存在も大きい。「際どいプレーは映像で判断するから公平。今は気持ち良くやっている」と話す。(吉田純哉)