「ドラマみたい」選手宣誓に運命 9年前の先輩がエール
19日に開幕する第93回選抜高校野球大会で、仙台育英の島貫丞(じょう)主将(3年)が選手宣誓をする。県勢が大役を任されるのは、震災翌年の石巻工以来。当時の主将は「震災に悩まされながらの10年だったと思う。その思いを率直に伝えて」とエールを送る。
石巻工の元主将、阿部翔人さん(26)は組み合わせ抽選会のあった2月下旬、スマホでニュースをみていて、仙台育英が宣誓を引き当てたと知った。東日本大震災から10年となる節目。「ドラマみたいな展開。これからも被災したときの思いを発信していかなきゃいけない」と運命を感じた。
当時の宣誓には「被災者の思いを代弁したい」と臨んだ。
「日本は復興の真っ最中です」と切り出した。自宅は全壊し、街は一変。身内を亡くしたメンバーもいた。「人は誰でも、答えのない悲しみを受け入れることは苦しくてつらいことです」とつないだ。満員の観客に「見せましょう、日本の底力、絆を」と呼びかけると、割れんばかりの拍手に包まれた。
優勝候補の神村学園(鹿児島)との初戦は、「震災を乗り越えたことをプレーでも見せなきゃ」と意気込んだ。敗れはしたものの、チームは一時逆転する粘りを見せ、阿部さんも3安打の活躍だった。
石巻に帰ると、街角で見知らぬ人から「勇気づけられた」と何度も感謝された。一方、進学先の大学では「選手宣誓の選手」というプレッシャーにも苦しんだ。
「小さい頃から夢だった甲子園の舞台に出られるのは、自分たちが努力した結果。プレッシャーに負けず大舞台で自分たちの野球をしてきてほしい」
大学卒業後、2017年から石巻高で保健体育の非常勤講師を務め、野球部のコーチとして甲子園を目指す。選手に改めて震災の経験を話すことは少ないが、「恵まれた環境に感謝して」と常に伝えている。
初出場となった柴田高の遠藤瑠祐玖(るうく)主将(3年)は、地元石巻の少年野球チームの後輩でもある。震災で野球ができなくなった子もいれば、野球を続けて良いか悩んだ子もいたという。「当たり前に野球ができることの貴さは、被災した自分たちがこれからも伝えていかなきゃいけない」と今も考えている。(近藤咲子)
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◎選手宣誓全文
東日本大震災から一年、日本は復興の真っ最中です。被災をされた方々の中には、苦しくて、心の整理がつかず、今も当時のことや、亡くなられた方を忘れられず、悲しみにくれている方がたくさんいます。
人は誰でも、答えのない悲しみを受け入れることは苦しくてつらいことです。しかし、日本が一つになり、その苦難を乗り越えることができれば、その先に必ず大きな幸せが待っていると信じています。
だからこそ、日本中に届けます。感動、勇気、そして笑顔を。見せましょう、日本の底力、絆を。われわれ高校球児ができること、それは全力で戦いぬき、最後まであきらめないことです。今、野球ができることに感謝し、全身全霊で、正々堂々とプレーすることを誓います。
平成24年3月21日、選手代表、宮城県石巻工業高等学校野球部主将、阿部翔人
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