「震災の気持ち薄れない」音速ラインの10年とこれから

聞き手・御船紗子
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 福島と東京を拠点に活動するロックバンド「音速ライン」は、東日本大震災の翌日からライブで義援金を集め、現在まで継続して復興支援を続けてきた。震災10年の節目を迎えたいま、福島県いわき市出身で郡山市在住のギターボーカル、藤井敬之さん(47)と、東京都狛江市出身のベース、大久保剛さん(41)の東北への思いとは――。

 ――福島を拠点に音楽活動を続けています

 大久保 藤井が福島に住んでいるからですね。僕自身は、旅行でしか来たことがありませんでした。福島の人は会うとほっこりするというか、一緒にいて落ち着きます。

 藤井 高校卒業後に東京で1年浪人して、仙台の大学を卒業した後はずっと福島。福島にいないと曲が書きづらくて。東京にいると、いろんなものが目に入ってこないというか。地元の空気感じゃないと、自然に曲が浮かんでこなくて、ずっと地元にいる。

 福島は空が高いんですよ。空気が違うし。風景の色が濃い。時間も、東京より穏やかに流れているような。

 ――震災当日は何をしていましたか

 藤井 11日は朝まで郡山にいた。朝、駅まで奥さんに送ってもらって、ライブのある名古屋へ向かった。俺、正直あんまり記憶がないんだよね。震災の記憶。ごちゃごちゃになっているというか。奥さんと連絡がとれなくて、不安なままライブを続けていた。14日にやっと郡山に帰れて、今度は福島第一原発3号機が爆発して。大変なことになったのを実感した。

 大久保と話して、ツアーは中止するつもりだった。でも、奥さんに伝えたら「やったほうがいい」と言われて。「MCでこっちの状況を話した方がみんなも安心する」と説得され、ツアーに戻りました。俺は正直、福島にいたかった。

 大久保 当時は藤井の気持ちをくむしかないと思っていました。故郷の状況を自分に置き換えると、精神的にきついものがある。どんな決断でも寄り添いたいと思った。東京も、ガソリンスタンドからガソリンがなくなったり、停電で交通がまひしたりして、身動きとりづらい状態が続いた。

 ――震災翌日のライブから義援金を集めて福島県に寄付。5月にはチャリティーソングを発表した

 藤井 僕は暇さえあれば曲を作るタイプ。「一人じゃない」は、心細い思いをしている人たちと曲でつながれたらと思って作った。義援金だけでなく、自分たちにできることで思いつくことはなんでもやった。震災直後は目の前のことをクリアするので精いっぱい。印象的だったのは、神戸でライブしたときは、観客の協力してくれ方が他と全然違ったこと。阪神・淡路大震災を経験しているからわかるんだろうと思った。

 大久保 復興するまでは長期戦になると震災直後からわかっていたので、自分たちの活動も息切れせず長く続けられるよう意識した。「ONandON Project」と名付けて、その時にできることをやりながら今まで。

 ――2009年から毎年、震災後も欠かさずに福島の音楽フェス「風とロック」へ出演しています

 藤井 ありがたいことですね。11年の9月に県内の街をいくつか回ったときに、みんなで集まって歌を歌うことがこんなに癒やされるんだと実感した。

 ――あれから10年です

 藤井 震災当時に作った曲の歌詞を見ていると、思うことは今と変わらないなと実感する。震災のときは、「日常」ってこんなに突然奪われるものなんだと思い知った。だから、一日一日を丁寧に生きないと、という思いで、「心のままに」や「心の中にパレードを」の曲を作った。今回も、コロナでまた日常を奪われた。

 コロナがはやり出す前くらいには、福島にもやっと日常が戻ってきたと思えるようになっていた。それがまたかよって。いくら構えても、日常を奪われる瞬間は突然やってくる。福島は原発の問題もまだ片付いていない。福島の人たちは、自分が生きている間には原発問題が片付かないだろうから、後世へつないでいかなきゃならない責務がある。そこに、コロナとも戦わないといけなくなった。

 目の前の人が笑ってくれるような毎日にすることが大事なんだろうな。それが俺の、震災との向き合い方。どれだけ自然に日常を送れるか。ときどきは震災のことを忘れることも必要だと思うし。

 大久保 震災に対する感じ方や向き合い方は、時間が経つとともに変わっていくんじゃないかな。答えはでないかもしれないけれど。震災に対する気持ちが薄れることは、これからもない。(聞き手・御船紗子)

     ◇

 おんそくらいん ギター&ボーカルの藤井敬之さんと、ベースの大久保剛さんによって2003年春に結成された。ツアーやフェスへの出演のほか、楽曲提供も多数。19年には結成16周年を迎え、新曲2曲を収録したベストアルバム、「『おてもと』Very Best Of ONSO9LINE」をリリース。21年には新作もリリース予定。