米軍が暗殺したイラン人は祖国の「英雄」だった。革命防衛隊という軍事組織のガセム・ソレイマニ司令官である。米軍の無人機(ドローン)攻撃で2020年1月に殺された。
彼の故郷を訪れ、その素顔を追う取材で味わった「恐怖」から、イランの特異な体制を支えるものの一端が垣間見えた。
ソレイマニはイランを敵対視する米国で「影の司令官」「スパイの親玉」と呼ばれ、警戒されてきた。
理由は、米国が19年4月に「外国テロ組織」に指定した革命防衛隊の要人で、中東におけるイランの影響力拡大の立役者と目されたためだ。
ソレイマニは1980年、24歳の時に革命防衛隊に入った。98年、41歳で外国での活動を担う「コッズ部隊」の司令官に就く。イラクやシリア、レバノンといった近隣諸国で、親イラン勢力を築いた。
そうやって米国に刃向かうソレイマニをトランプ前大統領は許せなかった。
「英雄」の故郷を訪ねると
テヘランから車でソレイマニの故郷を目指した。イランの国土は日本の4・5倍。果てしなく続く砂漠を南下し、3千メートル近い山を越えた。走行距離1250キロ、3日目に着いた。
南東部の村ガナト・マレク。土壁の民家がぽつぽつ並ぶ。住民の多くは羊飼いや酪農、木の実の栽培を生業とする。
坂の上に青色のイスラム教礼拝所(モスク)が見えた。塀には、目を閉じて祈るソレイマニの大きな写真。私はカメラで撮影していた。
その時、1台の白色の四輪駆動車が近づいてきた。男が下りてくるなり言った。
「日本人? 何やってんだ、こんな所で? 司令官のことか?」
笑顔で語りかけてきた。その目は笑っていない。
「やばい、取材は中止か」
運転席の扉に貼られたエンブレムが目に入り、血の気が引いた。小銃を握り、突き上げた右手が描かれている。
か、革命防衛隊だ……。
うろたえる私の首に、男は黒…
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