「防ぎようない」強豪相手もぐったり 東播磨の企業秘密

山口裕起
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 まるで敗者のような表情だった。

 第93回選抜高校野球大会第3日の第3試合、明豊(大分)―東播磨(兵庫)は延長十一回の末に、10対9で明豊のサヨナラ勝ち。だが、試合後の川崎絢平監督(39)は「想像以上に圧力がかかった」とぐったり。そして、「あれをやられたら防ぎようがない」と表情を曇らせた。

 「あれ」とは、東播磨の1死三塁からの攻撃のことだ。

 最初に衝撃を受けたのは同点の三回。盗塁と犠打で1死三塁のピンチを招くと、カウント1―1から、東播磨の三塁走者(臨時代走)の原正宗(3年)がスタートを切り、打者の砂川天斗(2年)はバットを上からたたきつけた。

 打球は前進守備の一、二塁間をゴロで抜け、適時打に。一時勝ち越しを許した場面に、ベンチの川崎監督は「すごく練習しているな」と敵チームながら感心したという。

 もちろん、21世紀枠で甲子園に初出場した東播磨が、機動力を武器にどんどん足を絡めてくることは想定内。投手陣には、足で揺さぶられても「気にするな」と伝えていた。だが、この1死三塁からの攻撃は予想を超えていた。

 走者のスタートは、打者が振り出すわずかに前。投球の高さがバットの届く範囲だと判断すれば突っ込む。打者はそれを見て、とにかく「転がす」という作戦だ。

 投球と同時にスタートするヒットエンドランよりは遅いが、打球が当たった瞬間の「ギャンブルスタート」や、ゴロと判断して走り始める「ゴロゴー」よりも早く、スタートを切る。

 守る側からすれば、投球を外すこともできず、前進守備を敷いても、なかなか本塁で刺すことは難しい。それで川崎監督も「防ぎようがない」と、あきれ顔になったというわけだ。「機動力と徹底力。すごく勉強になりました」

 1点差の九回にも東播磨は1死三塁から、この“十八番”の攻撃で同点に追いつき、延長戦に持ち込んだ。前進守備の三塁正面のゴロだったが、走者の高山隼(2年)は悠々と本塁へ滑り込む。三塁手の米田友(3年)は本塁へ送球すらできなかった。

 東播磨の福村順一監督(48)は自身が現役時代に走塁が苦手だったことで、指導者になってから「猛勉強した」という。そして、「弱小校が強豪校に勝つには走塁を磨かないといけない」との持論がある。かつて指導した加古川北(兵庫)でも、機動力を武器にチームを2度甲子園に導いている。

 昨秋の取材時。1死三塁のこの攻撃について尋ねると、「企業秘密だから、ナイショ」と鼻の前に人さし指を立てられた。この日、チームは初の甲子園の舞台で、そのプレーを発揮し、九州の強豪校と互角に渡り合った。「子どもたちが練習の成果を出してくれた」。福村監督はほほ笑んだ。

 3時間1分の激戦。試合後の両監督の表情だけ見れば、勝者と敗者が逆に映った。(山口裕起)