「まずは残留」千代大龍の星勘定 番付社会で執念の取組

小俣勇貴
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(23日、大相撲春場所10日目)

 大相撲で、力士はよく「一日一番」と言う。目の前の取組に集中するという意味だ。「まずは勝ち越しを目指して」。これも決まり文句の一つだ。千代大龍は、ちょっと違う。

 春場所8日目の21日。星を4勝4敗の五分に戻して、こう言った。「まずは残留。そこから、勝ち越し。まずは残留をかけてやっていかないと」

 3年前の春場所では役力士だった32歳。動きにまだ衰えを感じさせない。なのに、勝ち星の数え方が、消極的だ。ただ、これが多くの力士の本音でもある。

 番付表の幕内には、常に42人の力士が名を連ねる。その序列を決めるのは、場所後の番付編成会議だ。次の場所での地位を定める上で、番付編成要領には「勝ち星により協議の上、決定する」とある。三役以上をのぞき、幕内と十両は基本的に、勝ち越し一つにつき1枚上がる(負け越し一つにつき1枚下がる)と考える。東前頭11枚目の千代大龍の場合、下には5枚あり、幕内残留には最低でも5勝(負け越し5)ほしい、という計算になる。

 三役昇進を目指す力士も十両転落を避けたい力士も、みな勝ち星を計算している。番付社会の大相撲。月給は平幕の140万円に対し、十両は110万円。この差が、星勘定をさらに必死にさせる。

 ただ、場所の序盤から終盤まで声を大にして語るのは、千代大龍くらいだ。東前頭15枚目だった昨年の11月場所は下に2枚しかなく、いつにも増して言葉に力がこもっていた。

 「ケツ(番付の余裕)がないんでね、今場所は」

 「プライドというより、この地位を守ること」

 5勝3敗と星を二つ先行させて中日を折り返しても、「あと2番、勝たないと十両に落ちてしまう。変化でも、何をしても勝つ。そこから自分の相撲がとれれば。内容にこだわらない」と言っていた。結果、残留には7勝でよかったところ、9勝をあげた。

 今場所も、番付への危機感と幕内への執念を隠さなかった。それは取り口に、表れる。勝ち越しが決まるまで、得意な突き押しの形にこだわらないのも、相手からすればやっかいなものだ。10日目の23日、輝との取組では、激しくぶつかった直後、一転してはたき込みに。残留の目安となる5勝目をつかんだ。「いい相撲ではないけど、勝ちましたんで」と千代大龍。泥臭い姿が、プロ意識を感じさせる。小俣勇貴