映画化された兵庫・東播磨の甲子園応援劇が現実に
アルプススタンドの端っこにもドラマはある――。野球部の甲子園応援に駆り出された東播磨高校生4人という設定の舞台が、4年前の全国大会で最優秀賞に輝いた。くしくも野球部は第93回選抜高校野球大会に21世紀枠で選ばれ、春夏通じて初の甲子園へ。22日の初戦には生徒や保護者ら約900人が応援に駆けつけ、舞台で展開された物語が現実となった形だ。
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東播磨高校演劇部の舞台「アルプススタンドのはしの方」は、甲子園で戦う野球部員たちを、スタンドの端っこで見つめる生徒4人の会話劇だ。2017年に宮城県であった全国高校演劇大会で最優秀賞を受賞して注目を集め、20年には映画化された。
登場するのは、インフルエンザで大会を棄権した演劇部員2人、どんなに練習しても試合に出られないと退部した元野球部員、成績優秀だが周りとなじめない帰宅部員。強制的に駆り出され、最初はしぶしぶ応援していたが、強豪相手にあきらめない球児たちをみるにつれ、4人の表情は変わっていく。
演劇部の顧問だった籔(やぶ)博晶さん(31)=現・東播工業高校=が16年に台本を書いた。
自身は中学のサッカー部ではベンチ要員。高校ではサッカーをあきらめて演劇部に。「プレーできる人ってやっぱり特別。でも、見ている人にも色々な思い、色々なドラマがあると思う」。台本を書いた頃、野球部が力をつけていると感じていた。「甲子園出場が全くのフィクションではなく現実味があった。野球部の熱量があったからこそ書けた」と振り返る。
そして22日、野球部は甲子園の土を踏んだ。三塁側のアルプススタンドはチームカラーの紫で染まった。
吹奏楽部の奥野妃(きさき)さんは野球のルールも分からない。でも「選手たちの活躍に感動した」。コロナ禍の今大会は楽器演奏での応援はできなかったが、「夏はこの場で自分も演奏したい」と目を輝かせた。ソフトテニス部の木村進次郎さんは「同級生も活躍していたので刺激を受けた。自分もテニスで結果が出せるように頑張りたい」。
そしてアルプススタンドには、舞台に出演したかつての演劇部員の姿もあった。元野球部員役の佐田大幸さん(21)と帰宅部員役の栗崎美衣さん(20)=ともに大学生=だ。
22日の試合は、敗れはしたものの、後半追い上げる展開は舞台の展開と同じ。佐田さんは「あの舞台で表現した悔しさ、喜び、緊張すべての感情が、心から自然に湧いた」。栗崎さんは「本当に良い試合だった。今度は夏のアルプススタンドで、役を演じた4人で母校を応援したい」と笑顔で球場を後にした。(森下友貴、西田有里)
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