武漢人の魂たぎる汁なし麺 差別に負けず同郷人支えた店

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北京=平井良和
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 中国にある無数のご当地麺はどれも、街角の小さな店で老若男女が気取らずに食べる庶民のソウルフードだ。湖北省武漢市の朝食の定番「熱乾麺」もその一つで、小麦が香る熱々の麺にごまだれなどをぶっかけた汁なしのあえ麺だ。

 街のそこかしこで1杯5元(約80円)ほどで売られていて、多くの人が店先の路上で一気にすすり、今日の仕事へと向かっていく。武骨な見た目のこの麺は文字どおり、武漢人の心をたぎらせる日常食だ。記者も新型コロナウイルス禍の震源地となった武漢へ春、夏、秋、冬と通ううち、1カ月も間があけば体が熱乾麺を欲するようになった。

豪快に混ぜ、かき込む

 北京での滞在中に、そんな「渇き」を癒やしてもらっている店がある。

 市の中心部、国貿地区の高層ビルの1階にある「汪婆婆鹵菜(ワンポーポールーツァイ)」。店名は「汪おばあちゃんの煮物」という意味で、武漢出身の汪長吉(ワンチャンジー)さん(71)と妻の麗麗(リーリー)さん(69)、息子の小偉(シャオウェイ)さん(38)の家族3人で営む。麗麗さんの家庭的な煮物のほか、長江の魚などを使った鍋や焼き物をそろえる湖北料理の店。熱乾麺も看板メニューの一つだ。

 店の常連客の一人で、武漢出身の王芾(ワンフー)さん(33)は「武漢人だから熱乾麺にはうるさいけど、この店の味は本物だ。北京では、ほかに知らない」とうなる。

 熱乾麺を作るのは、息子の小偉さん。弾力のある麺は、基本を怠らない仕込みのたまものだ。小麦麺を「8割ゆでた状態」で鍋からあげ、扇風機の風を当てながら素早く徹底的にほぐす。そうすれば麺は急速に冷えて縮み、もちもちの食感になる。大豆などの植物油であえてしばらく寝かし、食べる直前に「残る2割」をゆでる。

 味付けは客の好みに合わせた3種類を用意している。それぞれ「80年代」「90年代」「00年代」と、時代区分を使った独自の表現を使う。

 「80年代」は白ごまを基調としたとろみのあるたれだけを使い、汁気の少ない乾いた食感を強く出す。麺や具材として載せるインゲン豆、大根の味が最も強く感じられる食べ方だ。中国がまだ豊かではなかった1980年代に広く親しまれた原点の味をイメージしたという。

 「90年代」は、たれに深みのある煮物のだしを加えてなめらかにする。高度経済成長にさしかかり、武漢の多くの店が調味料を増やし、複雑で奥行きある味を競い合うようになった時代のイメージだ。

 「00年代」は、四川料理で使われる辛い「紅油」を加える。若者の間で刺激的な味が好まれるようになった時代だ。

 記者が一番好きなのは「80年代」。豪快に混ぜて一気にかき込むと、口の中が小麦の香りで満たされる。

 小偉さんは自身の店の味について、小さい頃から故郷で毎日のように食べてきた多くの店の熱乾麺の「良いところを集めていっているつもり」と言う。3種の違いを時代で表現するようになったのは、今年の5月から。「武漢人が食べてきた熱乾麺の記憶を、北京のお客さんに伝えたいとの思いを持ったから」だという。

 店にとって、武漢が新型コロ…

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