くっついて離れず、壊れにくい。だから、いつまでも消えない――。
それが、便利でやっかいな、この化学物質の特徴だ。名前を「有機フッ素化合物」という。
水も、油もはじくため、多彩な用途に使われてきた。いまや「どこにでもある化学物質(Everywhere Chemical)」と呼ばれる。
たとえば、フライパンや炊飯器、レインコートや防水スプレー、キャンプ用品といった生活雑貨をはじめ、自動車部品や半導体の製造工程など。昨春、沖縄の米軍普天間飛行場から漏れて、周辺の住宅地を綿菓子のように漂った泡消火剤にも含まれていた。もともと自然界に存在せず、1950年ごろに人工的に作られたものだ。
それから70年あまり。代表的なPFOS(ピーフォス、ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ピーフォア、ペルフルオロオクタン酸)は、子どもの発育への影響や発がん性の疑いなどが指摘され、世界で規制が進む。国内では、PFOSが2010年に製造・使用が禁止され、PFOAは15年以降、製造・使用されていないという。
ただ、分解されにくく蓄積されやすいため、環境中に出ると土の中にとどまり、地下水を汚染しつづける。飲み水などから体内に取り込めば、半減するまでに数年かかる。このため、「永遠の化学物質(Forever Chemical)」とも呼ばれている。
PFOSやPFOAは、国内でも一部の地域で飲み水や地下水から高い濃度で検出されている。両物質については昨春、厚労省が飲み水、環境省は川や地下水について、水質管理の目安となる暫定目標値と指針値をそれぞれ設けた。ただ、健康への影響をみるため体内にどれだけ取り込まれたかを測る血液検査は、自治体では行われていない。
どこにでもあり、永く残り、健康への懸念がぬぐえないのであれば、目を背けることはできないのではないか――。
そう考えた研究者や市民たちが昨夏、大阪と東京で動き出した。
製造中止、工場側は「濃度下がっている」
大阪府摂津市に住む男性(69)は昨年6月、テレビのローカルニュースを見て驚いた。
環境省が、川や地下水にPFOSとPFOAがどれくらい残っているかを調べたところ、排出源となりえる施設に近い全国171地点のうち、13都府県の37地点で環境省の指針値を上回り、なかでも摂津市の井戸が全国で最も濃度が高かった、という。
指針値は、水1リットル中にPFOSとPFOAの合計で50ナノグラム。摂津市の井戸ではPFOAだけで1812ナノグラムが検出され、指針値の36倍を超えていた。
大手電気機器メーカーを定年退職して8年。男性は歩いて5分ほどの畑に足を運び、野菜を育てるのが日課だ。季節ごとに、なす、じゃがいも、きゅうり、ホウレン草、大根などを収穫して、自宅で食べる。専業農家だった父から譲り受けた畑には、地下水と農業用水を引いている。
畑の近くにある工場に問い合わせると、担当者がすぐにやってきた。
残留性のある化学物質による「体内汚染」。その知られざる実態を4回の連載でお伝えします。
「工場ではかつてPFOAを…