熱気少し戻った甲子園 スタンドに観客、声出さず応援も

近藤咲子、寿柳聡、黒田陸離 米田千佐子、浅沼愛
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 熱戦が続く甲子園に、観客が戻ってきた。コロナ禍で無観客、応援演奏なしだった昨夏の交流試合と異なり、今回はファンが入っている。だが1万人の上限があり、定番のブラスバンドも生演奏ではなく録音。夢舞台の熱気が少し戻ってきた形で、4カ月半後には選手権大会が開かれる。

 今大会3日目となった22日は月曜日。第3試合の観客は8千人と発表された。

 勝った明豊(大分)の遊撃手、幸修也主将(3年)は昨夏の交流試合にも出場した。今回の有観客の試合は「他では味わえない緊張感を味わえた」。先発し、三回途中で降板した京本真投手(3年)は交流試合は観客席から見ていた。「投げていて圧力を感じ、動揺してしまった」と話した。

 ファンの熱気は高い。雨天順延となった21日には、雨が降る中、早朝から多くの人が球場を訪れた。神戸市中央区の福祉業の男性(31)は唯一購入できたチケットを手に訪れた。今年はチケットが日付指定のため無効となったが、「試合は見に来られないけど、球場のまわりを散歩して雰囲気だけでも楽しみたい」。

 応援席も変わった。

 20日、東海大相模(神奈川)のアルプス席には、1千人の上限に対して約700人が集まった。交流試合で来られなかった応援団も集まったが、声を出せないので無言の動きと太鼓だけ。応援団長の村上胡桃さん(3年)は「録音のブラスバンド演奏にタイミングを合わせるのが難しい」。それでも、「生はやっぱり臨場感が違う。みんなで応援できるのが高校野球の醍醐(だいご)味だと思う」と話した。

 22日、具志川商(沖縄)のアルプス席には約850人。沖縄県うるま市から来た中島香さん(39)は「本当は声を出したりハイタッチしたりしたいけど、我慢する」。流れる応援曲「島唄」に合わせてメガホンを打ち鳴らした。

 応援曲は、沖縄代表の応援を毎年行ってきた市立尼崎高(兵庫県尼崎市)の吹奏楽部の演奏を録音したもの。具志川商の川根茂森校長は「録音でも、曲があると応援の雰囲気も盛り上がる」と話した。

 ファンたちも声を張り上げての応援はできない。22日に訪れた仙台市太白区の京谷武さん(72)は、昨年は観戦できなかっただけに「居心地がいいね」。観客が1万人に制限され、「盛り上がりはいまいち。でも、ブラスバンドの生演奏や声援がない分、打球音や選手の声がよく聞こえていい」と話した。(近藤咲子、寿柳聡、黒田陸離)

「開催がものすごくうれしい」 球場内外からも

 観客を心持ちにしていた人たちは球場内外にいる。

 客席を回る売り子も戻った。球場内のアルコール販売は中止となり、売るのはソフトドリンクだ。高校野球が好きで5年ほどアルバイトしている女性(21)は「『楽しみだった』と声をかけてくるお客さんもいる。開催がものすごくうれしい」と声を弾ませた。

 球場内の甲子園歴史館は、昨年の今ごろは休館していた。今年は企画展「センバツ地域別特集」を開催中。担当する安部早依理(さいり)さん(29)は「多くの方に来ていただいて、展示を見てもらえてよかったです」と話す。順延となった21日には甲子園見学ツアーも急きょ実施し、盛況だった。

 球場近くの店舗も開いている。土産物店「甲子園桃太郎」は昨年、1千万円以上損失を出した。店主の太田雄一郎さん(37)は「昨年一年は長すぎる冬だったが、今は冬を越えた桜の季節だと感じる」。対戦カード入りのタオルは初めて桜柄を販売する。売り上げはまだ半分ほどだが、客の笑顔に元気をもらうという。

 球児らが例年、参拝に訪れる球場隣の「甲子園素盞嗚(すさのお)神社」。畑中秀敏宮司(65)は「にぎわいが少し戻ってきたようだ」と喜ぶ。ただ、例年より訪れる人は少ないという。

 兵庫県警によると、雑踏警備の規模は、1試合約4万人の観客が入ると想定して臨む通常の大会と同規模だという。

 中止となった昨春、無観客だった昨夏を経て、少し戻った今回の甲子園。今夏の選手権大会は、東京五輪パラリンピックの間の時期の開催になる。(米田千佐子、浅沼愛)