第1回ママは南アから来た 漁業の町のスナックに届いた悲報
「高知県奈半利町のスナックに、南アフリカ出身のママがいる」。そんな情報を聞き、記者(25)は太平洋に面した小さな港町へと向かった。なぜ、はるか1万4千㌔離れたアフリカ大陸から高知へとやってきたのか。取材をしてわかったのは、海や国籍を越える、男女の不思議な縁だった。
酒場に昭和歌謡が流れ出す。身長180センチの白人女性が、グラスのビールをグイッと飲み干した。
「ママ、飲み方えぐいやか」。飲みっぷりの良さに20人ほどが座れるスナックは、常連客の喝采で大きく沸いた。
太平洋に面した高知県東部の奈半利町。港町の片隅にある「マーメイド」は毎夜、酔客でにぎわう。
2階建てビルの1階。青い看板が明るくなると開店の合図だ。記者(25)が取材に訪れると、女性3人が笑顔で出迎え、カウンターに案内してくれた。
店内は薄暗く、黒を基調としたシックな雰囲気だ。壁の酒棚に客がキープしたウイスキーや焼酎のボトルが100本以上並ぶ。
店は地元の固定客が中心だが、遠洋マグロ漁業などで知られる隣の室戸市から飲みに来る客もいる。
「港出たなら 鮪(まぐろ)を追って 越える赤道」
客が熱唱し、ママは拍手で盛り上げる。
「おいらの船は300とん」(作詞・石本美由起)は漁業で潤う地元の定番曲だ。宴会では、歌詞の「港」を母港の「室戸」に言い換え、大合唱するのがお決まりだ。
ママの小堀エルダさん(61)は南アフリカ出身。はるか1万4千キロ離れた高知県に嫁いできた。
海中転落し、簡単な英会話すらできず不安げにしていたマグロ漁船員に、エルダさんは看護の空き時間にABCから教え、船員は代わりに日本語を教えた。そして恋が芽生えた。
店は昨年で30周年を迎えた…