第4回マグロ漁と恋の取材、迎えてくれたのは豪快なママだった

湯川うらら
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 「高知県奈半利町のスナックに、南アフリカ出身のママがいる」

 こんな情報を手がかりに取材を始めたのは約半年前。なぜ、はるか1万4千キロ離れたアフリカ大陸から日本、それも高知県東部の小さな港町にやってきたのか。その理由が知りたくて、店を訪ねた。

 記者(25)はスナック初心者。扉をおそるおそる開けると、待っていたのが店のママ、小堀エルダさん(61)だった。

 「いらっしゃい」。エルダさんの満面の笑みに、私の心もなごんだ。

 奈半利町は、遠洋マグロ漁の基地がある室戸市に隣接する人口3千人ほどの町だ。大型船が停泊できる港があり、山間部では林業が盛んだった。

 そんな歴史からか、町は人口比で見ると全国的にもスナックが多いという。

 エルダさんの店「マーメイド」は、そんな「スナック激戦区」で30年以上も愛されてきた。

 エルダさんは身長180センチ。鼻が高くてメガネが似合う美しい人だった。

 「穏やかそうで、薄暗くシックな店内にぴったり」。そんな第一印象はすぐに裏切られた。

 グラスのビールを一気に空けるなど、飲みっぷりは豪快。常連客との会話は漫才のよう。「私は土佐弁しか知らんきよ」とカラカラと笑った。

 「飲んだら家族やき」

 そう言って取材中の私にもどんどんビールを注ぐ。

 高知県は別名「酒の国」。高知の人たちは何かにつけて宴会をするのが好きで、同じ杯を使って酒を酌み交わす「献杯」や「返杯」の風習も残る。高知県内を担当する記者としては、取材先から勧められたら飲むしかない。

 漁師が好んで歌う演歌や昭和歌謡をバックに、エルダさんが語る波瀾(はらん)万丈の人生に耳を傾けた。

 故郷の南アで高知のマグロ漁船の船員と出会い、恋に落ちたこと。高知での結婚生活や子育ては苦難の連続だったこと。自分の店が軌道に乗った矢先に夫が交通事故で急逝したこと。

 店や家に何度も通い、エルダさんのことが少しずつわかってきた。

 取材の関心は当初、「高知県の片隅でスナックを営む南ア出身のママの人生を描く」ことだった。

 だが、エルダさんや船員たちの取材を進めると、マグロ漁師と恋愛関係になり、海を越えて日本にやってきた多くの外国人女性の存在がわかった。

 「遠洋マグロ漁の歴史で語られていない、国際結婚の姿を、彼女たちを通して描いてみたい」

 取材のテーマが固まった。エルダさんや船員、元船員、漁船の船主らに協力してもらい、ペルーやスペインの女性たちとも出会うことができた。

漁師の国際結婚、幸せばかりでは

 取材を試みたが、最終的に記事で紹介できなかった女性も多かった。夫の親戚たちから反対されてつらい日々を送ったり、どちらかの浮気で離婚したり。

 幸せな人生ばかりではなかった。当時について語りたくないと思うのも仕方がないことだ。彼女たちの「恋の話」は、美辞麗句を並べたおとぎ話ではない。リアルな人生の一つの「転機」に過ぎないのだ。

 一方で、純愛を貫くカップルもいる。

 今年2月、高知県の元マグロ漁船員で、現在は宮城県塩釜市の「漁安丸」の漁労長・林勝明さん(57)に衛星電話を通じて取材した。この日も西アフリカ沖周辺で操業していた林さんは、南アで暮らす妻のモリシアさん(42)への思いを語ってくれた。

 長期間を船上で過ごし、妻と子を南アに残す結婚生活を続けて20年以上。恋愛に距離は関係ないことを、2人は教えてくれた。

 食料や燃料補給を目的に異国の港で過ごす数日の間、精悍(せいかん)で実直な日本人の漁師と、彼らの仕事を理解する優しい異国の女性がひかれ合う。

 国際結婚といっても何か特殊な理由があるわけではない。そんな恋愛について、取材した人たちは「自然の流れ」と表現した。

 高知県(土佐)のマグロ漁船員と、たくましく生きるエルダさんたちの生き方に思いを込め、高知県版の連載のタイトルは「マグロ土佐船純情」とした。

 登場人物たちの純情が伝わってくれれば、筆者としてはうれしい。

【動画】土佐のマグロ漁師と結婚、南ア出身のスナックのママ= 湯川うらら撮影