2浪3浪当たり前の東大サークル 挫折越えて伝える景色

阿部朋美
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 大学受験のシーズンが終わり、志望校に通った人もいれば、そうでなかった人もいるかもしれない。

 2年以上浪人生活を送って、東京大学に合格した学生たちでつくる「東京大学多浪交流会」というサークルがある。交流会の基準では、2浪3浪は当たり前。メンバーには10浪以上の学生もいる。時に現役で合格した同級生と年齢のギャップを感じつつ、全国の浪人生を励まそうと、それぞれの経験を発信している。

 「いよいよ入試本番です 全国の浪人生、勉強時間の暴力で現役生を圧倒する機会がやってきました 全国の浪人生に栄光あれ」。2月25日、東京大学の個別試験(2次試験)の当日、交流会のメンバーがツイッターでつぶやいた。

 交流会は2016年に4浪の学生が立ち上げ、現在は81人が所属する。少ないながら女性メンバーもいる。東京大学の大学案内によると、2019年の前期日程と推薦入試の合格者計約3千人のうち、2浪以上の人は100人程度と、全体の3・7%だ。30~40人のクラスでも多浪仲間は少なく、多浪同士で集まろうと結成された。

 交流会の主な活動は、SNSでの発信に加え、毎年5月に開かれる文化祭「五月祭」でサークル誌「東大多浪」を販売。毎年1千部以上を売り上げ、浪人生や保護者を中心に人気を集めているという。

 現役で合格した同級生との会話でギャップに気づくことも、多浪「あるある」だという。入試シーズン直前のため、出席できなかった成人式。周囲は10代なのに、すでに飲酒ができる年齢の自分。聞いてきた音楽の違い……。こうしたことも、交流会では共通の話題となって盛り上がる。

 「挫折を知らないエリート」と思われがちな東大生のイメージからはみ出した多浪生たちが、浪人経験で得たものとは。

その30分「YouTube」か「勉強」か

 3浪で理科Ⅰ類に合格した2年の大嶽匡俊さん(23)は、もともと周囲の影響で京都大医学部を志望していた。周囲が合格していく中、2浪目に入ると取り残された感じがした。合格した仲間に対して、うらやましいと思うと同時に、嫉妬がわき上がった。勉強に励んだが、3度目の京都大受験も不合格。明治大工学部に進学した。

 工学部の授業を受け、「自分がやりたいことはこれだ」と感じたという。明治大1年の夏に東大の研究発表会に行き、東大を志すことに。「それまでは京大医学部に入り、卒業して、医師免許を取る」という人生設計しか考えたことはなかった。「苦しい時間だったけど、浪人経験を経て、人生には想定外のことがいくらでも起こることを知った」という。大嶽さんは現在、交流会の会長も務める。「同じ境遇なのは自分1人じゃないと知ることができた」

 2浪で理科Ⅱ類に入った1年の平野秀大さん(21)。毎年多くの東大合格者を出す都内の進学校に入学し、クラスで成績が最下位だった。1浪して北海道大に進学したものの、東大に進学した友人に会うと捨てきれない東大への思いに気づいた。仮面浪人して、東大に合格した。

 大学での授業と並行しながら受験勉強をしたことで、自分の生活を見つめるようになったという。「30分ある時にYouTubeを見るのか、勉強をするのか、一つ一つの選択をきちんとするようになった」

 浪人時代、親との関係が変わった人もいる。進学校ではない岐阜県の高校に通っていた理科Ⅱ類2年の安田知明さん(22)は、勉強方法について両親に口出しされるのが嫌だったと振り返る。1浪の時にはほとんど両親と口をきかない状態。「つらいのは自分1人だ。誰にも関わってほしくない」と殻にこもっていた。だが、両親が2浪することを快諾してくれた頃から心境は変化していった。食事を用意し、予備校にも送迎してくれる両親に感謝の気持ちを持つようになってから、気持ちに余裕ができ、勉強も集中できるようになったという。

たどり着いた勉強法

 多浪生の就職活動はどうなのか。仮面浪人を経て2浪で入学した山崎達弥さん(24)は、今春文学部を卒業し、サービス業大手に入社する。就活の時には、遠回りをしながらも諦めずに自分の意思で進路を決めてきたことをアピールし、内定をもらったという。「浪人はしたほうがいいとは言わないが、確実に自分を高める機会になる」と話す。

 失敗をくり返しながら、それぞれがやりたいことや勉強方法を模索していった交流会のメンバー。2月に、おすすめの参考書や勉強法、生活習慣などをまとめた「多浪で東大に合格してわかった本当にやるべき勉強法」(KADOKAWA)を発売した。

 浪人をせずに東大に合格することはできなかったと振り返る安田さんは「今ここにいるのは、経験が僕たちを強くしたから。『諦めない心』を培ったから」と語る。これから浪人生活を送る人たちには「諦めず、ときに休みながら歩み続けてほしい。目指した先では想像をはるかに超えた景色が見られる」と、エールを送る。(阿部朋美)