長谷川義史さん果たした約束 廃校の愛唱歌を絵本に

武田肇
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 ♪みんな強くて みんな弱い。大阪市生野区の市立御幸森(みゆきもり)小(児童数75人)で「給食ソング」として親しまれていた「グーチョキパーのうた」が、人気絵本作家、長谷川義史さん(60)の手で絵本になった。きっかけは7年前に子どもたちとした約束だった。御幸森小は今月末、100年近い歴史に幕を閉じる。

 ♪グーより強いのは…パー パーより強いのは…チョキ チョキより強いのは…グー みんな強くて みんな弱い

 「グーチョキパーのうた」は在日コリアン2世のシンガーソングライター趙博(チョウバク)さん(64)が2010年に作詞・作曲し、ライブなどで歌ってきた。後半には「みんなちがって みんないい」と、多様性を肯定する歌詞も登場する。

 人間が安心して生きる基本原理を追求した大阪市出身の作家、小田実(まこと、07年に死去)が好んだ言葉「人間みなチョボチョボや」を念頭に作った、と趙さん。

 それを給食の時間に校内放送で流す歌として採用したのは、かつて御幸森小の教員だった足立須香(すが)さん(62)だ。

 御幸森小は、韓国の物産を売る店が並ぶコリアタウンに近く、児童の3分の2が朝鮮半島にルーツを持つ。誰もが自らの由来に自信を持つことを目指す「多文化共生教育」の実践を進め、2012年に大阪市で初めてのユネスコスクールに認定された。

 「互いのルーツを尊重しあうことや、違和感とうまくつきあう『折り合い力』など、子どもたちに身につけてほしいと取り組んでいたことが全部込められていた」。曲のテンポがよいこともあり、全校児童が自然に口ずさむようになった。

 長谷川さんは自作の絵本を朗読しながら即興で描画する「絵本ライブ」を各地で開催しており、14年2月に御幸森小で公演した。空気の冷えた体育館で迎えた子どもたちがノリノリで歌ったのが「グーチョキパーのうた」だった。近所に住む趙さんも駆けつけた。

 「誰もが強くて弱い、みんな一緒という歌詞にすごく共感し、これを絵で伝えられたらいいと思った」。長谷川さんは児童たちを前に「絶対絵本にするね」と口にした。

 下絵は早々に完成させたが、民放の人気情報番組にも出演していた長谷川さんは超多忙だった。出版社側の事情も重なり、約束はなかなか果たせなかった。

 だが、長谷川さんは昨秋、御幸森小が市の学校統廃合で閉校すると知った。

 「あのころの子らはみな卒業してしまったけど、絶対完成させなあかん」

 絵本が刷り上がったのは御幸森小として最後の卒業式前日の3月18日。足立さんが代表を務める一般社団法人「ひとことつむぐ」が買い取り、趙さんの歌のCDもつけて卒業生10人にプレゼントした。

 「全国のいろんな学校を回ったけど、絵本ライブに参加した御幸森の子どもたちの無邪気な笑顔は今も忘れられない。ぎりぎりになってしまったけど、絵本を通じて、御幸森が大事にしてきた価値観が、全国の子どもたちに届けばうれしい」と長谷川さんは言う。

 解放出版社刊で税別1500円。ひとことつむぐは、絵本とCDを在校生65人の全員に贈るため、支援金を募っている。問い合わせは、まちの拠(よ)り所(どころ)~Yosuga(よすが)~(06・6796・9897 machinoyosuga@gmail.comメールする)。(武田肇)