いすゞ乗用車が根強い人気 専門店で見た「街の遊撃手」

北林慎也
【動画】イスズスポーツで聞いた、いすゞ乗用車の魅力(撮影=竹谷俊之・編集=北林慎也)
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 ♪いつまでも いつまでも 走れ走れいすゞのトラック~ このキャッチーなCMソングによって、商用車専業メーカーとして広く知られるいすゞ自動車。運送会社のトラックや路線バスの他、かつては乗用車も手がけていた。その独創的で丁寧な作りに、いまだ熱心なファンが多い。いすゞの乗用車を専門に扱う中古車販売店「イスズスポーツ」(東京都羽村市)を訪ね、いすゞ製乗用車の魅力と流通の現状を探った。

旧車の妙味、三角窓の風と吸排気音

 イスズスポーツを訪れると、店頭で真っ先に目に入るのが「117クーペ」。いすゞ旧車の代名詞的な存在で、この店でも一番人気だという。工業デザイナーの巨匠ジョルジェット・ジウジアーロがデザインした低く伸びやかなスタイリングは、車体の大きさ以上の存在感を放つ。イスズスポーツでは、高価だったハンドメイドの最初期型をフルレストアする一方で、中期以降の量産モデルをベースに、手頃な整備で扱いやすさを重視した個体もそろえる。

 店のデモカーとして用意するのは、1973年式の1800XG。珍しい紫色の車体は貴重なオリジナルカラーで、後付けのクーラーやパワーウィンドーといった快適装備が付く。後席に乗せてもらうと、外から想像するほどには窮屈ではない。ガラス面積が大きく、意外と開放感がある。キャブ仕様DOHCエンジンの豪快な吸排気音と、前席の三角窓から入ってくる生暖かくも心地よい風が、旧車の妙味だ。

 いすゞは16年創業の名門メーカーとして、トヨタ自動車日産自動車と共に国内自動車「御三家」とも呼ばれた。しかし、価格帯が高い少品種生産にこだわった乗用車の販売シェアは低迷を続け、93年に自社生産から撤退。細々と続けていたOEM供給販売やSUV生産も2002年までに終了した。現在では、トラックを主力としながらピックアップトラックベースのSUVを東南アジア向けに現地生産するが、国内投入はされていない。

【動画】いすゞ117クーペのデモカーに同乗試乗した(撮影=竹谷俊之・編集=北林慎也)

好景気と円高が支えたコラボ

 乗用車市場へのいすゞの参入は、英国メーカーと提携したノックダウン生産による中型セダン「ヒルマンミンクス」(1953年)を緒とする。そのため、初期のいすゞ乗用車は英国車のテイストが色濃い。63年登場の小型セダン「ベレット」には、ラック&ピニオン式のステアリングや4輪独立懸架など走行性能にこだわった新機軸が盛り込まれた。長いモデルライフの間に派生したバリエーションが多彩で、なかでも「ベレG」と呼ばれた2ドアクーペのGTシリーズは、当時の若者たちの憧れだった。

 ベレットの後継セダンが「ジェミニ」だ。提携先である米ゼネラル・モーターズ(GM)傘下の欧州メーカーと車台を共用。21世紀のグローバル戦略車を先取りしたような、まだ珍しい開発手法だった。バッジやモールによる装飾は最小限で、国産車離れしたプレーンなスタイリングが特徴的だった。欧州の街中をアクロバティックに駆けるCMで有名な2代目は85年に登場。「街の遊撃手」として親しまれた。現代的な前輪駆動のファミリーカーとなったが、ホットバージョンはさらに過激になる。取材時にはちょうど、納車を控え最終仕上げ中のイルムシャー仕様があった。西ドイツ(当時)のチューニングメーカーとの希少なコラボモデル。三菱自が独AMGと組むなど、好景気と円高を背景に国内メーカーと欧州チューナーとの提携が盛んな時代だった。いすゞはのちに、英ロータスとも組んでいる。

 イスズスポーツの熊木諭巳さん(46)によると、いすゞの旧車は他メーカー車に比べて部品調達の苦労が少ない。プラットフォームやエンジンを多くの車種で共用し、頻繁な全面改良を避けて長く作り続けたためだ。また、117クーペなど人気車種向けを中心に、基幹部品の再生産にも積極的だという。全国から買い付ける入庫車のコンディションは様々だが、顧客のオーダーや相談に応じて仕上がりや価格も大きく変わる。ただし、乗り出し時にきちんと整備して、消耗品の交換やメンテナンスの時期を把握しておけば、日常の足として乗ることも難しくない。海外での知名度が低かったせいか、アメリカなどへの輸出需要で価格が高騰するトヨタや日産などの旧車に比べると相場は低いという。

世代を超えて愛される独創性

 先月、いすゞはトヨタとの業務資本提携を発表した。世界的な脱炭素の動きを踏まえ、トラック国内2位の日野自動車も巻き込んで次世代技術研究を進める。乗用車の自社生産撤退から30年近く経ち、その間に業界の景色は一変した。良いクルマの指標は耐久性や豪華さから、安全性や燃費へと変わりつつある。メーカー間の世界的な合従連衡は、研究開発コストの抑制と生産合理化が一番の狙いだ。しかし、そんな味気ない時代だからこそ、いすゞ乗用車のマニアックな独創性はいっそう際立つ。「商用車を主力とする財閥系メーカーのいすゞでは乗用車部門が傍流だったため、採算度外視で理想主義的な、夢のあるクルマ作りができたのでは」と熊木さんは話す。

 イスズスポーツでは近年、ユーチューブやSNSでの情報発信に力を入れている。28歳の店舗スタッフ「担当Y」さんが自らステアリングを握り、入庫車両を紹介。往時を知らない世代ならではの新鮮な驚きや発見を交えながら、その魅力を伝えている。紹介動画を見た若い人からの問い合わせも増えているという。

 いまだ世代を超えて愛される、いすゞの乗用車。そんな個性あふれる旧車に手を入れながら大事に乗り続けるのもまた、エコな新車に乗るのと同じくらいエコなライフスタイルのはず。そう担当Yさんは胸を張る。「こういったクルマはもう二度と世に出てこない。大事に整備しながら、一台でも多く後世に残していきたい」(北林慎也)