第6回自分の家を自分で壊す エルサレムに広がる奇妙な光景

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エルサレム=高野遼
写真・図版
青春と愛国とロケット弾 パレスチナを生きる  グラフィック・伊坂美友
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青春と愛国とロケット弾⑥

 イスラエルとの対立のために、自宅を失うパレスチナ人が後を絶たない。そんな話を取材しに行ったときのことだった。

 取り壊された自宅を前に、男性が私に言った。「この家は昨晩、私が自分で壊したんです」

 とっさには意味が分からなかった。イスラエル当局に壊されたのではなくて? 「いや、自分で壊した」と彼は言う。

 セルフ・デモリション

 英語を直訳すると「自ら取り壊すこと」という意味になる。

獄中にいたパパは精子を菓子袋に…そして僕は生まれた

自力ではあらがえない紛争のど真ん中で生まれ、何を感じて大人になっていくのか――。パレスチナの未来を担う若者たちの現実に迫る。

 世界でも特異な現象なのだろう。グーグルで検索してみると、エルサレム発の英文記事ばかりがずらりと並ぶ。

 パレスチナ人が、自らの手で自宅を破壊する――。そんな奇妙なことが、ここでは日常的に起きている。そして子どもたちを含む、多くの人たちが住まいを失っている。

 なぜなのか? その現場に立ち会おうと、取材を始めた。

あそこは娘の部屋……

       ◇

 その日、私のスマホが鳴ったのは夜7時のことだった。

 「これから自宅を壊すことにした家族がいる。行くか?」

 私の取材を支えてくれるパレスチナ人助手からの一報だった。「行く」と答え、迎えに来た助手の車に飛び乗った。

写真・図版
夜中に取り壊しが進むビレル・ダバシさんの自宅=2020年8月25日、エルサレム、高野遼撮影

 向かったのは東エルサレムパレスチナ人が住む街の一つ。現場に着くと、暗闇を照らすライトの中で、1台のショベルカーが一軒家を破壊し始めていた。

 重機がコンクリートの壁をえ…

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