野菜は1日350グラム?高すぎる目標に挫折する前に

新生活応援

大脇幸志郎
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 桜の季節も過ぎていよいよ春めき、旬の野菜がスーパーに並んでいます。野菜が好きな人も嫌いな人も、健康的な食べものと言えば野菜をイメージするのではないでしょうか。

 気がついてみると、外食をしても野菜たっぷりのメニューがちらほら、コンビニには野菜ジュース、書店を見れば野菜を使うレシピの本が並び、私たちの生活は「野菜を食べよう」という声に取り囲まれています。

 この連載は、医学知識を横目で見つつ、ちょっと不健康な生活を小声で応援します。つまり、健康的かどうかには関係なく、野菜が好きなら食べ、嫌いなら食べなければいいじゃないか、ということです。

 子供っぽい意見に思えるかもしれませんが、落ち着いて考えてみましょう。本当に野菜をそんなに食べないといけないのでしょうか。

 野菜の量についてよく参照される数字が、「健康日本21」に書き込まれた「350グラム」です。この数字をもとに、野菜ジュースの原材料が「1日分」と説明されていることもあります。

 野菜の量はあくまで栄養素の量から計算された目安なので、栄養素の量が目標に一致していなければ、「350グラム」に意味はありません。

 野菜の量の目標は、1985年の「健康づくりのための食生活指針」では決められていませんでした。このころすでに日本は長寿国だったのですが、2000年の「健康日本21」で急に野菜の量が決められました。

 日本ではようやく「エビデンスに基づく医学」という言葉が普及してきたころで、現代の感覚からするとかなり大雑把な議論で目標量が決められています。

 実際に食べている量の調査結果と比べると、主要な栄養指標6項目のすべてが「適正」の範囲にある人は15.1%しかいないという、厳しすぎる目標です(繰り返しますが、85%が不適正とされる日本人は、とても長生きする民族です)。

 現行の栄養素のガイドは『日本人の食事摂取基準』20年版ですが、こちらは「健康日本21」とは大きく違う内容になっています。

 では、最新の基準から見て、「350グラム」は妥当でしょうか。違うとすれば、どれくらい野菜を食べればいいのでしょうか。

 まず、『日本人の食事摂取基準』は野菜の量の目標を決めていません。目標がないので「どれくらい野菜を食べればいいかはわかりません」というのが公式見解です。

 それでもゼロ回答で終わるのはつまらないので、ムリヤリ「目標値もどき」を計算してみます。

 「健康日本21」はどのように基準値を決めたのでしょうか。資料(https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/pdf/b1.pdf別ウインドウで開きます)によれば「野菜(緑黄色野菜+その他の野菜)の摂取量と食物繊維カリウムビタミンC摂取量の関連を検討し、それらの栄養素に関して十分な摂取量を確保するためには、これらの食品をどの程度摂取する必要があるかについて検討を加えた」とのことです。カリウム・食物繊維・ビタミンCの摂取量を基準にしたということです。この3点について、『日本人の食事摂取基準』ではどう決めているでしょうか。

 まず、ビタミンCには「推定平均必要量」、食物繊維には「目標量」、カリウムには「目安量」と、少しずつ意味の違う基準値が決められています。

 大まかに言って、食物繊維とカリウムはどの程度が必要なのか十分な科学的根拠がないので、どんぶり勘定で決めたということです。

 ビタミンCはある程度のデータに基づいていますが、ビタミンCの不足による病気(壊血病)を防ぐ量ではなく、「疾病予防効果及び抗酸化作用」を基準に決めたという注記があります。

 こんなに多くなくても生きていけるが、国民全員が「大量ビタミンC健康法」をやりたがっていると仮定すればこのくらい、という意味です。

 つまり、主に野菜から摂取されると考えられる栄養素の基準値は、データが乏しい中でなんとなく決めたか、必要最低限よりかなり多く設定したか、どちらかだということです。

 そして、いまの日本人はこうしたアバウトな基準値を、だいたいクリアしています。

 19年の国民健康・栄養調査によれば、日本人全体のビタミンCの平均摂取量は推定平均必要量を超えています(かなり多く設定したのに!)。食物繊維の目標量とカリウムの目安量を、実際の摂取量と男女別に比較したものが表(*)です。

写真・図版

 基準値を下回っているところもありますが、その差はわずかです。

 野菜の量とこのふたつの栄養素の量が比例すると仮定すると、男性で9%、女性で3%増やせばすべてクリアです。基準値の性格を考えれば誤差のようなものです。

 実際には、野菜摂取量の平均値は男性で276.7グラム、女性で263.6グラムです。これでおおむねカバーできているのですから、「350グラム」は高すぎる目標と言えそうです。

 筆者は野菜がない献立でも別に気にならないのですが、妻が好きなルッコラとかアボカドを一緒に食べているうちに、だんだん野菜に詳しくなってきました。食事が進むので独身のころより少し太ってきました。

 せっかく仲良くおいしく食べているときに、どの食材が何グラムだなどと、興ざめな話をしなくてもいいのではないでしょうか?

* 食物繊維の目標量、カリウムの目安量は『日本人の食事摂取基準』20年版で18歳から64歳までの年齢区分に対して決められたもの。実際の摂取量は令和元年国民健康・栄養調査の結果のうち全年齢の平均値。(大脇幸志郎)

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新しい年度が始まる4月、入学や入社など人生の大きな転機を迎える人も多いことでしょう。心機一転、新しいことを始めたくなるときでもあります。新生活を応援する記事をまとめました。[記事一覧へ]

大脇幸志郎
大脇幸志郎(おおわき・こうしろう)
1983年、大阪府生まれ。2008年に東大医学部を卒業後、「自分は医師に向いているのか」と悩み約2年間フリーターに。その間、年間300冊の本を読む。その後、出版社勤務、医療情報サイト運営を経て医師に。著書に「『健康』から生活をまもる」、訳書に「健康禍 人間的医学の終焉と強制的健康主義の台頭」。