朝9時から飲める和歌山の名物居酒屋 3代目社長の意地

藤野隆晃
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 酒好きが集う和歌山市居酒屋「多田屋」。平日の昼前からも、酒とつまみを楽しむ人がちらほらいる。「じいちゃん、ばあちゃんからの積み重ね、成果がこの店」と話すのは3代目社長の多田信一さん(52)だ。新型コロナウイルスで大きな打撃を受けても、変わらぬ営業を続けている。

 のれんが掲げられた入り口に貼られた、「お酒の歴史は数千年 多田屋はまだまだ95年」と書かれた紙が目を引く。1927年の創業から、JR和歌山駅近くで酒の卸と居酒屋の営業を続けている。

 幼い頃から、酒に酔った大人がいることが当たり前だった。親は休みなく働き、休日に遊びに連れて行ってもらえる友達をうらやましく感じることもあった。ただ、それが嫌と感じるわけではなく「そういうものだと思っていた」。

 大学卒業後、大手ビールメーカーに就職。大阪や三重で営業や卸に関わった。4年働いた後、実家に呼び戻された。継ぐことに抵抗はなかった。

 2000年、多田さんが3代目社長になった。駅前の人通りは幼い時と比べて減り、活気が失われていった時代だった。一方、04年に熊野古道などが世界遺産に登録されると、観光客が増え、店を訪れる外国人客も増えた。酒場を訪ねて巡るテレビ番組で紹介されたこともあった。

 昨年から続く新型コロナウイルス感染拡大。全国各地の居酒屋の客足が落ちたように、多田屋も例外ではない。

 県内で感染者が初めて確認された昨年2月から、客足に影響が出始めた。3月に入るとガクッと落ち込み、例年の約2割にまでなった。秋ごろには例年の4割ほどにまで持ち直したが、第3波がやって来た年末年始にまた減少。マスクの着用や換気など対策はしているが、例年は忘年会や新年会で売り上げが増える時期だっただけに、金額の下げ幅は大きかった。酒の卸し先も売り上げが落ち込んでいた。貯金を切り崩し、融資も受けた。

 コロナ禍が終わった後にも不安はある。生活習慣が大きく変わり、かつてと同じように居酒屋に人が集まるのだろうか。「ここで話したことで関係が良くなったりとか、お互い知るきっかけになったりとか。思い出の一つになるとか。来た人にとって良い機会になったと感じられる場になれたら」。そんな思いで店を守っている。

 営業時間は午前9時から午後10時。全国的に感染者が増えた時期でも、休業はせずに閉店時間を2時間前倒しして対応した。ほとんど客は来ず「店を閉めている方が良いくらい」という状況だったが、休まなかった。物心ついた頃から定休日はなく、朝から晩まで開いていた店。コロナ禍でも変えなかった。「ずっと店をやってきたし。コロナに負けたくないという、そういう気持ちですよね」。祖父母の代から店を続ける、意地という。(藤野隆晃)