昨年12月、東海地方でベリーダンスの発表会があった。
暗めの舞台で女性(31)が踊り出すと、2歳の娘が客席からよちよち歩きで手を伸ばし、抱っこを求めた。女性に片腕で抱かれると、手をゆらすような動作をまねていく。その可愛さに、客席から歓声があがった。
母と娘。どちらにも国籍がない。
女性は日本で生まれ、育った。こんなことになるなんて、大人になるまで想像すらしていなかった。
女性が無国籍に気づいたのは20代になってからだった。
「保険はどうやって入るの?」
あるとき女性は父に尋ねた。派遣会社の社員をやめ、国民健康保険に入る必要が生じたからだ。
「ちょっと待っててくれ」
父はすぐには答えなかった。女性はその後、父から言われて入国管理局に行った。
そこで、女性は生まれた時にどの国にも出生届が出されず、無国籍だと知らされた。住民票もなかった。父が住んでいる自治体に事情を説明し、幼稚園から高校まで通えていたようだ。
父は日本人。自分もずっと日本で育ってきた。自分が日本人であることを疑ったことはなかった。
国籍が取りたい 法務局に行っても…
入管では、いきなり指紋を採られ、写真を撮られ、事情聴取をされた。入管からみれば「不法滞在」の状態にあったためだ。ショックだった。「誰も傷つけていないのに」
なぜ、いきなりこんな目にあうのか。父に尋ねても、「母さんが重要なことを話してくれなかった」と言うばかりで、きちんと答えてはくれなかった。
母の出身国は、フィリピン…