一緒に旅した天国のじいちゃんへ捧げる 1枚の鉄道写真

細川卓
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桜ものがたり2021

 鉄路を淡く包むように咲く桜色の間を、JR阪和線特急「オーシャンアロー」が弧を描いて駆け抜ける。昨年4月、藪和紀(やぶかずき)さん(19)は大阪府阪南市の山中渓(やまなかだに)で、買ったばかりの一眼レフカメラを構えた。「じいちゃん、天国から見えてるか」。きれいな景色を仏壇に飾るため、夢中でシャッターを切った。

 穏やかで優しい祖父の耕造さんが大好きだった。一時鉄道会社に勤めた祖父の影響で、2歳から大の鉄道好きに。一緒に鉄道旅行を重ねた。鉄道模型にもはまり、「好きにやっていいよ」の言葉に少し高価な模型をねだったことも。2人で作り上げた1・5メートル四方のNゲージは宝物だ。

 そんな祖父が2年前から体調を崩して入退院を繰り返すようになり、次第に会話もできなくなった。昨年1月、病室で「もう1回鉄道旅に行くよ」と話しかけると、にっこり笑ってくれた。それが最後になった。1週間後、心不全で息を引き取った。80歳だった。

 この春、専門学校に通いながら鉄道の運転士を目指し、就職活動をしている。「じいちゃん、運転士になったよ」。いつか桜の咲く頃に、そう仏壇に報告したい。(細川卓)