「あの桜だけは」亡き夫と歩んだ40年 新川の桜堤

遠藤真梨
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桜ものがたり2021

 花見は40年前、引っ越してきた春から始まった。

 「新川の桜堤」として知られる大阪府高槻市の桜の名所で、近くに住む梅原三枝子さん(78)はこの桜とともに人生を歩んだ。娘2人が幼いころは義母と夫の5人、満開の下で塩むすびをほおばった。孫が生まれてからは小さな手を引き、夫の退職後は夫婦で早朝の桜堤を散歩した。

 2年前の春、桜ばかり撮る夫からカメラを奪い、「いつか役に立つ時があるから」と、何の気なしに夫の姿を写した。しかし翌年の冬の朝、夫は脳出血で倒れ帰らぬ人に。春に撮った一枚が遺影となり、夫にかけた言葉を悔いた。

 夫がいない初めての春の朝。いつもより早く目が覚めると、前夜の雨も上がり整理できないままの部屋に朝日が差し込んでいた。夫が冷蔵庫に入れたビール、部屋にかかる古いカレンダー。ふいに「あの桜だけは」と思い家を出た。五分咲きの花をぬらすしずくを見ながら、自然とほおを涙が伝った。亡くなってから初めて、心から泣いた。

 あの一枚は今、食卓の上の写真立てにある。毎朝「おはよう」と言いながら水の入ったグラスを供え、夫と桜を見つめる。(遠藤真梨)