[PR]

 静岡県下田市箕作の歌人、後藤瑞義さん(78)が、亡き妻早苗さんの遺歌集の編集に取り組んでいる。「わが家の天使」と名付けた自閉症の三男をともに育てた同志。二人を支えたのは短歌だった。

     ◇

 短歌を新聞や雑誌に投稿していた早苗さんが急逝したのは4年前。眠るような最期だったという。

 早苗さんは、歌を書きためたノートを3冊残していた。歌集にするため整理していると、時が経つのを忘れた。作業が進まず、なかなか出版できなかった。

 後藤さんが、特に興味がなかった短歌を始めたのは早苗さんのためだった。「母体を取るか、子どもを取るか」と医師に決断を迫られた難産で生まれた三男には重い障害があった。

 単身赴任中だった後藤さんは早苗さんを励まそうと毎日、はがきを書いた。話題はもっぱら早苗さんが結婚前から趣味にしていた短歌。それが一番寄り添えると思ったからだ。有名な歌の感想に始まり、次第に自分で作ることにのめり込んでいった。

 二人の作風は対照的だった。後藤さんは自分の人生にからめて内面を発散させた。「自閉児」「障害」の言葉も多用して三男への思いを表現することに迷いはなかった。一方、早苗さんは、自然や熱心に取り組んでいた野菜作りの情景を詠むことを好んだ。三男の歌はほとんど詠まなかった。

 後藤さんは「障害児を育てることは大変なこともあるが、思いがけない気づきや喜びもある。それらを歌にすることで、心のバランスをとってきたように思う。妻も作品で直接三男に触れなくても同じだったと思う」と話す。歌は夫婦がお互いの気持ちを伝えあう会話でもあった。

 施設にいる三男は2週に一度、帰宅する。せがまれて散歩するのが日課だ。一緒に歩く道が後藤さんの創作の場になっている。

 洞よりは若木をのばし産土(うぶすな)にその根千年おろす椎(しい)の木

 最近、短歌の全国的なコンクールで入選した歌だ。「作風が妻に似てきたな」と思う。(石原幸宗)

関連ニュース