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 3月中旬、東京都心の公園で4歳の男の子が母親の前から姿を消した。警視庁は誘拐事件を疑い、警察犬も動員して40人態勢で捜索に当たった。それから2時間後、迷子になっていた男の子に声をかけ、最寄りの交番まで連れていったのは、港区立白金の丘小学校4年の名郷根(なごうね)景さん(9)だった。4月5日に警視庁麻布署から感謝状を贈られた名郷根さんは、両親に言い聞かされていた「ある言葉」が行動の原点にあったことを教えてくれた。

 麻布署によると、男の子が迷子になったのは3月14日の午後3時45分ごろ。昼過ぎから港区内の公園で母親と一緒に遊んでいたが、急に姿が見えなくなった。

 公園には植え込みや木々が多く、幼い子どもが迷子になる可能性は低くない場所だという。母親の110番通報を受けた警視庁は、付近の捜索を始めた。ただ、手がかりはつかめないまま時間が過ぎていった。

 捜索を指揮した警察幹部の一人は「事件や事故に巻き込まれているかもしれない、と焦りを感じた」と振り返る。

 動きがあったのは、あたりが暗くなり始めた午後5時半ごろのことだった。公園から1キロほど離れた場所に住む名郷根さんが、自宅前の路上で不安そうにたたずむ男の子を見かけた。

 「迷子だ」と直感したが、あたりを通りかかった大人たちは声をかけようともしない。スマートフォンに目をやったまま過ぎ去る人もいたという。

 両親から「良いことをしたら、良いことが返ってくるよ」と教えられてきた名郷根さん。これまでも、街中で知らない人の重そうな荷物を持ってあげたり、体育の授業でけがをした友達を率先して保健室に連れていったりしてきた。

 この男の子も助けようと思った。怪しい人と思われないため、「悪い者ではありませんよ」と優しく声をかけた。

 男の子を連れて向かったのは約500メートル離れた交番。名郷根さんは学校の授業で近くの消防署を訪れたことがあり、交番の場所もそのときに確認していた。

 男の子の不安を取り除くため、じゃんけんをしたり、「どんなご飯が好き?」といった言葉をかけたりしながら、交番へ2人で歩いたという。

 母親の前から姿を消してからおよそ3時間。親子は再会することができた。男の子にけがはなかった。

 麻布署で感謝状を受け取った名郷根さんは「大人がちゃんと声かけてくれればいいなと思います」と話した。付き添った父親の修さん(42)は「誇らしいの一言。コロナ禍で人に話しかけにくい世の中で、勇気ある行動をしてくれて本当にうれしいです」と息子をたたえた。

 麻布署の村瀬智行署長に「これからも、その優しさと勇気を忘れないでください」と激励された名郷根さん。「男の子がお母さんに会えてめちゃくちゃうれしい。『自分すごいな』って思います」(増山祐史)