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 夏秋キャベツ生産日本一の群馬県嬬恋村に、約100年前に製造された鉄車輪の乗用トラクター「フォードソンF型」がある。国内に現存するF型の中では最も古いとみられる。キャベツの生産に欠かせないトラクターは「村の貴重な産業遺産であり、地域の宝だ」と、嬬恋郷土資料館でお披露目する予定だ。

 フォードソンF型は、アメリカの自動車王フォードの自動車会社からトラクター部門が独立したフォードソン社の製品。フォードの量産車「T型フォード」のように、トラクターも流れ作業方式で量産し、世界にトラクターを普及させた。F型は1917~28年に製造された。

 嬬恋村のF型は、村内でトラクターの販売や修理を手掛ける「マル健機械」を営む金子健次さん(73)の所有。懇意にしていた静岡県富士宮市の牧場主が亡くなり、三十数年前に遺族から譲ってもらった。ボディーに刻まれた特許の年号などから古いことは分かっていたが、製造年などは不明だった。

 嬬恋郷土資料館は、高原野菜の産地発展の礎となったトラクターなどの企画展(昨年11月19日~今年5月7日)を開催中で村内のトラクター情報が寄せられた。関俊明館長が調査し、国内に現存するトラクターなどと比較した。

 金子さんのF型は札幌市の三谷牧場で使われた3台のうちの1台だ。他の2台は戦時中に「零戦」を牽引(けんいん)するため軍に徴用されたという話が伝わる。

 国内に現存するF型では、北海道八雲町の徳川農場で1923年に導入したトラクターが、上富良野町の「スガノ農機 土の館」にある。札幌市の「北海道開拓の村」には1927年に輸入したトラクター、福島県鏡石町の岩瀬牧場には大正末期に宮内省が輸入したトラクターなどがある。

 キャブレターの部品番号を比較したところ、金子さんのF型は、徳川農場のトラクター(1922年製)より古い部品が使われている。関館長は「現存する中で最も古い」という。

 金子さんは仕事の合間をみて、F型を解体してさびを落とし、修理してきた。鉄車輪はさびてボロボロだったため、新たに作り直した。塗装もやり直し、往時の姿がよみがえった。「きれいになってトラクターも喜んでいると思う。歴史を伝えていきたい」と話している。

 金子さんは、嬬恋村の農家が1958年に導入したゴムタイヤの「フォードソンデキスター」も所有している。珍しいナンバープレートもついている。県内では最も早い時期に導入したトラクターとみられる。

 関館長は「高原の開墾などに活躍したトラクターは農業の近代化や機械化の生き証人。今日のキャベツ王国を築く礎になった」。

 同資料館は企画展に合わせて「F型」や「デキスター」、最新型のトラクターなどを29日から5月5日まで展示する予定だ。問い合わせは(0279・97・3405)へ。(柳沼広幸)