そばに近づけない母へ 最期まで届けた絵手紙33通

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南宏美
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 昨年3月、埼玉県内の介護老人保健施設で、93歳の三角令子さんは食堂の椅子に座ってぼんやりしていた。

 職員がやって来て、折りたたまれた1枚の紙を手渡した。その紙を開いた瞬間、三角さんの顔がぱあっと明るくなった。

 近くにいた人たちも集まってきた。紙をのぞき込むとみんなも笑顔になった。

 その様子を数メートル離れたフロアの入り口付近から見守る人がいた。三角さんの長女、田島明子さん(69)だ。

 新型コロナウイルスの感染予防のため、母のそばには近づけなかった。

 A4サイズの紙には、鹿児島県の親族から届いた鮮やかなオレンジ色のタンカンが描かれていた。

 家族の近況や「お母さんも元気でネ♥」というメッセージも添えられていた。

 田島さんが初めてつくった絵手紙だった。

 その前年の年明けまで、母は埼玉県内のマンションでひとりで生活していた。

 家事をこなし、デイサービスでは歌が得意で、字が美しい人として知られていた。

 けれど、風邪のような症状で体調を崩して入院したのをきっかけに、好きだった料理をほとんどしなくなり、持病の薬の管理も難しくなっていった。

 隣市に住む田島さんが頻繁に母の家を訪れ、サポートするようになった。

 そんな生活が半年ほど続いた後、介護老人保健施設に入った。「家族に負担をかけたくない」と母が希望し、「幸せ、幸せ。ありがたいよ」と話した。

 施設での生活が始まって半年が過ぎるころ、国内で新型コロナが広がり始めた。3月には外部の人との面会ができなくなった。

 田島さんは週2回、着替えなどを届ける際に遠目に母の様子をうかがった。うつろな表情でぼんやりと過ごしていることが増えたような気がした。

 「何か刺激を与えないと、ど…

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