リニア水問題は「終盤戦」? JRと静岡、やまぬ攻防

宮川純一
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 リニア中央新幹線をめぐる国土交通省の有識者会議が始まってからまもなく1年。大井川の水をテーマに科学的な論点は出尽くし、議論は煮詰まったかに見える。JR東海の金子慎社長は8日、「水については終盤戦に来ている」と述べたが、工事に難色を示す静岡県の勢いは増す。焦点は「全量戻し」だ。

 川勝平太知事は3月23日、有識者会議の進み具合を「1合目だ」との認識を示した。難波喬司副知事が3月上旬に「8合目」と評したのと対照的だった。

 この両者の差は、3月22日にあった10回目の有識者会議に原因があったとみられている。有識者会議がこの日公表した中間報告の素案の中には「全量戻しとはならない」などと記されているためだ。

 南アルプスにトンネルを掘れば山の水が抜ける。JR東海の計画では工事期間中は山梨県側などにこの水が流出する。県はトンネルに抜けた水を大井川に全量を戻すよう主張している。

 有識者会議の素案には「全量の戻し方が論点」としつつ、「工事期間中は全量戻しとはならないが、下流の河川流量は維持される傾向にある」とある。JR東海の主張がソフトな言い回しで採り入れられた形だ。

 これを受け金子社長は3日後の会見で「中下流に影響ないとの議論をいただいた」とし、今月8日も「有識者会議も水利用に影響しないだろうとおっしゃっていただいている」と踏み込んだ認識を示している。

 JR東海は、全量戻しでなくても大井川の水量と水質は維持できると考えている。有識者会議では山をタンクにたとえるモデルを用いて説明。県外に水が流出してもタンク全体の水の一部が減るだけで、大井川の流量には直接、影響ないというデータを出し続ける。

 静岡県は県外に水が失われるのだから、長期的には地下水が減り、流量にも影響が出るとの主張を譲らない。川勝知事は全量戻しにこだわりを見せ、有識者会議やJR東海に対する不信感を強める。

 静岡県は当初から「全量戻し」にこだわってきた。

 リニア中央新幹線は2011年に国土交通相がJR東海に建設を指示。その後の調査でJR東海は13年、大井川水系で「最大で毎秒2トンの水が減る可能性がある」と予測した。

 県はこれに対し、14年の環境アセスメントにおける知事意見として「本県境界内に発生した湧水(ゆうすい)は(中略)全て現位置付近へ戻すこと」と求めた。それも「工事中及び供用後において」「水質及び水温等に問題が無いことを確認した上で」との条件付きだ。17年に川勝知事はこの「全て現位置付近に戻す」という全量戻しの表明がないとして、「堪忍袋の緒が切れた。JR東海には猛省を促したい」と記者会見で厳しい口調で詰め寄った。

 JR東海は、大井川の水利用に影響を与えないようにするが、全量を戻すと逆に量が増える、などと説明してきた。だが利水者の不安を解消するためとして、18年には「原則、トンネル湧水の全量を大井川に流す」と表明した。翌年には長野や山梨との県境での工事では「全量を戻せない期間がある」と明らかにし、県との議論が難航。国土交通省が仲裁のために有識者会議を発足するに至った。

 大学教授ら7人でつくる有識者会議は昨年4月27日に始まった。1年間で会議は10回を数え、JR側から多角的なデータの提供があった。それでも専門家である委員の間で解釈の仕方に違いが生じていた。

 この中で、現実的な解決策を探る動きも出ている。大井川流域の8市2町は3月20日、JR東海に要望書を渡した。この中で求めているのは「流量と水質」の保持。「トンネル湧水の全量」という文言はなく、柔軟に対応していく可能性が出てきた。

 ただ、国交省によると有識者会議で「流量が維持される」との結論が得られたわけではない。水資源の問題でどのように決着を図るのか。その決着で静岡県がどう反応するか。流域の自治体や県民の関心が高まっている。(宮川純一)