デジタル教科書導入、「所有から利用」で見過ごせぬ論点

有料会員記事

[PR]

新井紀子のメディア私評

 学校教育のICT(情報通信技術)環境を整備する「GIGAスクール構想」の一環で、タブレット端末などが小中学校に配備された。新型コロナ流行下の昨春、小中高校は最長3カ月の一斉休校を余儀なくされた。学びをどう継続するのか。その声に後押しされ「1人1台パソコン」は推進された。

 インターネットがあれば、学校から貸与された端末を使い、休校中もオンライン授業を受けられる。宿題もネットを通じて配布できる。デジタルドリルには、各人のつまずきに合わせて最適な復習問題を選んでくれる人工知能(AI)機能もついている。児童生徒の学習はクラウド上のサーバーに「学習履歴」(学習ログ)として蓄積され、進捗(しんちょく)をいつでも確認できる。早期からデジタル機器に慣れ親しむことでデジタル社会で活躍する人材育成にもつながる――。こうしたメリットを朝日新聞などのメディアも喧伝(けんでん)してきた。

 そんな中、デジタル教科書に関する文部科学省の有識者会議が中間提言を公表した(朝日新聞3月18日付)。タブレット端末で利用できるデジタル化した教科書(デジタル教科書)の本格導入を2024年度に目指すという。その方法として「紙の教科書をすべてデジタル教科書に置き換える」が含まれていることに仰天した。

 紙の教科書や参考書は何年たっても読み返すことができる。しかし、デジタル教科書・教材はそうはいかない。「紙からデジタルへ」というのは、所有から期限付き利用への大転換を実は意味する。どのメディアも問題視していないようだが大丈夫なのか。

 所有が利用になると、何がどう変わるのだろう。恐らくはこうなる。

 親の事情で別の自治体に引っ越す児童生徒は、デジタル端末を学校に返却する。その瞬間、端末を通じて利用していた教科書や教材は利用できなくなる。学習履歴から「どの問題が最適か」を選んでくれたAIともお別れだ。デジタル教科書に自ら書き込んだ内容も、級友と共有した学びも、転校先に持って行くことはできない。

 事は転校にとどまらない。各社が出すタブレットやデジタル教科書・教材の規格がバラバラなら、互換性はない。AIに蓄積されたデータは各社にとって虎の子だから、当然共有されまい。自治体が行うデジタル端末や教材の契約は年度ごと。教科書選定も数年ごとに行われる。次年度の端末提供会社や教科書会社が前年度と同じとは限らない。となると、前年度の教科書どころか「学びすべて」がアクセス不能になる可能性が高い。デジタル化で、学びの継続性が阻害され得るのだ。

 自宅でもデジタル教科書・教…

この記事は有料会員記事有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

2種類有料会員記事会員記事の会員記事が月300本まで読めるお得なシンプルコースはこちら