教師の仕事の魅力を広め、減少傾向が続く志望者を増やしたい――。そんなねらいで3月末に文部科学省が始めた「#教師のバトン」プロジェクト。ねらいとは裏腹に、ツイッターには長時間労働などの「惨状」を訴える悲痛な叫びがあふれている。文科省は8日、メディア向けに急きょ説明会を開催。担当者は「訴えを率直に受け止め、働き方改革を加速する」と繰り返した。
文部科学省によると、「#教師のバトン」プロジェクトに関連する投稿は2万件を超えた。9日も投稿が相次いでおり、教員の窮状を訴える声や、働き方をめぐる課題を指摘する声が目立つ。
「社会から注目いただいていると前向きにとらえ、厳しい訴えを率直に受け止めて、働き方改革を加速する」
プロジェクトを所管する文科省総合教育政策局の義本博司局長は8日、急きょオンラインで開いた「メディア向け説明会」でそう語り、文科省が進める教員制度改革について詳しく述べた。プロジェクトが始まる3月下旬にも別の担当者が記者発表しており、わずか2週間で2度目の説明となった。
義本局長は、その後の取材に「厳しい実態を訴える声もくるだろう、と思っていた。『当てが外れて逆効果』というより、しっかり向き合いたい」と話し、「炎上」との見方を否定。説明会を開いた意図については、「沈静化を図ろうとしたわけではない。丁寧に説明したということ」と話した。
記事後半では、実際に19年間続けた教員を辞めた女性が登場。「相変わらずトイレに行く暇すらない。目に見えて変わったのは、午後6時以降、学校の電話が留守電に切り替わったことくらい」と話します。
教員の多忙さについて社会的な関心が寄せられるようになったきっかけは、経済協力開発機構(OECD)の国際教員指導環境調査(TALIS)だ。
日本は2013年と18年の調査に参加。中学校の教員が対象だった13年(34カ国・地域が参加)、小中学校が対象だった18年(中学は48、小学校は15の国・地域が参加)のいずれでも、教員の1週間当たりの仕事時間は参加国の中で最長だった。
中学の場合、18年の1週間当たりの仕事時間は56・0時間で、13年より2・1時間長くなっていた。
文科省も06年と16年に教員の勤務実態を調査(06年は小中学校の約5万人、16年は小中の約2万人が対象)。小学校教員の平日1日当たりの勤務時間は、16年が11時間15分で、06年より43分長かった。中学校も16年は11時間32分で、06年より32分増えていた。
こうした実態を受け、文科相の諮問機関・中央教育審議会は、教員の働き方改革を審議。19年に、時間外勤務時間の上限ガイドライン(月45時間、年360時間など)を盛り込んだ答申を出している。
厳しい労働環境を敬遠してか、教員をめざす若者はかつてなく減っている。20年度に採用された公立小学校教員の採用倍率は、全国平均で2・7倍と、過去最低だった。
教員のなり手を増やそうと、文科省は今年1月、10人弱の職員によるチームを発足させた。教育学部の大学生や、教職を断念した新卒生ら数十人に話を聞いたところ、「働き方改革が本当に進んだのか不安」との声が多くあがったという。そこで、現場から教員の魅力を発信してもらおうと始めたのが、「#教師のバトン」プロジェクトだった。(編集委員・氏岡真弓、高浜行人)
教員辞めたら子どもが嬉しそうだった
〈びっくりしたんです! 19年間続けた小学校教員を辞めたら、7時半に我が子達と夕飯が食べられたんです とんかつ揚げても7時半にいただきますができたんです 教員辞めたら、息子と娘がめちゃくちゃ嬉しそうなんです つまり、そういう仕事です。 #教師のバトン〉
「#教師のバトン」のハッシュタグをつけ、こうツイートした東京都内の40代の女性。この春、教員を辞めた。
「若い世代には、とてもじゃないが勧められない仕事。40歳を過ぎ、あと20年以上続けられるだろうかと考えたとき、無理だ、このままでは死ぬときにきっと後悔する、と思った」。女性は朝日新聞の電話取材に、そう語った。
2児を育てながら教員を続け…