負けてから532日、駆けた50キロ 丸尾ゴール後の涙

酒瀬川亮介
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 記録はいいのに、なかなか勝てなかった選手がついに東京五輪の代表の座をつかんだ。

 陸上男子50キロ競歩代表の残り1枠。11日に石川県輪島市であった日本選手権50キロ競歩で2017年世界選手権代表の丸尾知司愛知製鋼)が大会新となる3時間38分42秒の好タイムで初優勝。20キロ競歩を含め、陸上競技でメダルがねらえる数少ない種目である男子競歩の代表6人が出そろった。

 レース後の記者会見で丸尾はしみじみと言った。「負けてから530日ぐらいたっているんですけど」

 正確には532日前になる。五輪代表を決める決意で出場した2019年10月の全日本50キロ競歩高畠大会のことだ。当時の日本記録を上回る記録を出しながら、川野将虎旭化成=当時東洋大)に負けて2位。「あのことを考えない日はなかった。負けると思った日、勝てないかもと思う日もたくさんあった」

 あとは、この日の日本選手権で優勝するしか道はなかった。

 レースは中盤まで日本記録並みのハイペースで進んだ。元日本記録保持者の野田明宏(自衛隊)と丸尾の一騎打ちになったが、35キロ付近で丸尾が遅れ始めた。不安がよぎる。「負けてしまうかも。でもまだ終われない」と追った。

 イーブンペースで押すタイプだが、3月の宮崎合宿では上げ下げの練習を繰り返した。数々の五輪選手を送り出し、いまは愛知製鋼のコーチをしている内田隆幸さんは「疲れたときでも歩型が崩れないのが競歩の命。徹底的にやった」。

 そして、この合宿で丸尾の練習パートナーを引き受けたのが20キロ競歩五輪代表でいま世界最強と言ってもいいチームの後輩、山西利和。ペースを上げ下げしてライバルにダメージを与える戦術が得意だ。

 2人の合宿の成果が、終盤の逆転となって表れた。40キロで追いつき、42キロでスパートして勝負を決めた。代表を決めるゴールテープを切ると、感極まった。「泣きたくないけど、自然に泣いてしまった」

 沿道で声援を送った山西も「チームにとっても会社にとっても、ぼくにとっても一番いい形になりました」と声を詰まらせた。

 男子50キロ競歩は、19年世界選手権金メダルの鈴木雄介(富士通)と日本記録保持者で世界歴代11位の川野将虎旭化成)がすでに代表に内定しており、これで代表3人が出そろった。

 日本陸連強化委員会の今村文男五輪強化コーチは「50キロで日本は強くなったなと感じる。(20キロを含め)それぞれの種目に向けた準備、レース戦略を考えてやっていけば、メダルや優勝という目標にたどりつくんじゃないかと思う」とすべての代表選考会を終えて総括した。(酒瀬川亮介)