日本の自殺者数が、11年ぶりに増加に転じた。女性、そして若者の「生」が脅かされたのが特徴だという。この数字が物語ることはなんなのか。「死にたい」というよりも「生きるのをやめたい」という願望が語られる社会を、「未来が脅かされている」とNPO法人ライフリンク代表の清水康之さんは言う。
――2020年、国内の自殺者数は前年より4・5%多い2万1081人で、09年以来の増加に転じました。新型コロナ禍が影響しましたか。
「転機は、昨年2月末の『一斉休校』宣言でした。休校になって働きに行けない保護者は、当然収入が減る。もともとギリギリの生活をしている人にとっては、死活問題です。借金を重ねたり、家族関係が悪化したりしかねない。これはまずい、と」
「私は超党派の自殺対策議連のアドバイザーをしています。休校宣言直後に自殺リスクの増大への警鐘を鳴らす緊急提言をまとめるよう働きかけました。当初はコロナ禍は、自分が感染するか否かの健康問題でしたが、いずれ自殺リスクに転化しかねない。それに備えた対策の枠組みをあらかじめ整えておく必要があると考えたからです。緊急提言を踏まえ、政府の緊急経済対策にも、コロナ対策の特別措置法の付帯決議にも、自殺対策の視点が盛り込まれました」
「私たちの念頭にあったのは、1998年の自殺の急増です。このときは、中高年男性を中心に、前年よりも8千人以上多く自殺で亡くなりました」
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――山一証券の経営破綻(はたん)などが相次いだのが97年でした。
「当時は上場企業に就職すれば安泰という時代です。そのため、正規雇用で働く人へのセーフティーネットが整備されていなかった。それも大きな要因となりました」
「同様の自殺リスクの高まりを予想しましたが、予想とは違う経緯をたどりました」
――何が違ったのでしょうか。
「まず、4、5月に自殺者数…