世界初のコロナ生体肺移植 背景に日本の「残念な現状」

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阿部彰芳
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 京都大のグループが7日、新型コロナウイルスの肺炎で肺の機能を失った女性に、家族から提供された肺の一部を移植した。この女性には移植しか助かる道はなく、コロナの患者への生体肺移植は世界初の報告だ。だが、この「世界初」が意味するところは複雑だ。なぜ、生体移植だったのか――。

 「大変困難な手術でしたが、何とか乗り切れたという状況です」

 10時間57分におよぶ手術を終えた翌朝、執刀した呼吸器外科の伊達洋至教授は記者会見に臨んだ。手術に参加したスタッフは約30人。経過が順調なら、患者の女性は2カ月ほどで退院、3カ月ぐらいで社会復帰できると説明した。

 「新型コロナウイルス感染の後遺症で重篤な肺障害を起こした患者にとって、生体肺移植は希望のある治療法になりうると思います」

 女性は昨年末にコロナに感染した。肺炎がおさまり、体内からウイルスが消えたが、両方の肺は硬く小さくなっていた。呼吸の機能が失われ、回復は見込めなかった。

 この約3カ月間、命をつないだのは、ECMO(エクモ)(体外式膜型人工肺)だ。血管に刺した管から血液を取り出し、酸素と二酸化炭素を交換して体に戻し、肺の機能を肩代わりする。ただ、感染や出血の危険があり、いつまでも使うことはできない。

 女性は、基礎疾患がなく、肺以外の臓器に障害もなかった。そこで浮上したのが肺移植だった。入院先の病院から、肺移植の実績が国内トップの京大病院に移り、夫と息子がそれぞれ肺の一部を提供した。

 伊達教授によると、夫と息子には、肺全体の約20%が提供されるため肺活量が減ることや、傷が残り、痛みを伴うこと、出血や感染、空気の漏れといった合併症の可能性が否定できないことなどを説明し、同意を得て手術に至ったという。

 日本集中治療医学会理事長の西田修・藤田医科大教授は「新型コロナの患者であるかどうかに関わらず、エクモを含む集中治療の管理が向上している。現代医療では、全身の状態が良好に保たれながら、肺機能の回復が見込めない場合には、肺移植以外には根本的な救命手段がない」と今回の移植を評価する。

「移植でしか救えない命」

 日本移植学会副理事長の湯沢賢治・水戸医療センター臨床研究部長も「移植でしか救えない人を救えたことは、移植医療として誇っていいことだ」と話す。

 その一方で、「安全性を担保した上で臨んでいるとはいえ、肺の一部を提供した人の肺活量は落ち、将来的にQOL(生活の質)への影響も懸念される。本来は脳死のドナー(提供者)の肺が用いられるべきだった」と指摘する。

 「日本は、脳死の人からの臓器提供が極めて少ない。健康な人を傷つける生体移植に頼らざるを得なかった点は、日本の残念な現状を表している」

 日本移植学会の倫理指針では…

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