原発立地町と漁業者、分かれる意見 海洋放出めぐり福島

古庄暢、滝口信之、力丸祥子、飯島啓史、長屋護、佐々木達也、笠井哲也、荒海謙一
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 東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出が決まった13日、風評への懸念から福島県内では漁業者を中心に反対する声や慎重論が相次いだ。一方、復興の足かせになるとして、早期処分を求める原発の立地町などは政府方針を容認。原発事故負の遺産の処分を巡り、立場の違いも顕在化した。

 政府の海洋放出方針に対してこの日、最も強く反対したのは風評への懸念が強い漁業者だった。

 「復興を進めるためには不可欠」。梶山弘志経済産業相はいわき市に県漁連の野崎哲会長を訪ね、頭を下げた。これに対し野崎氏は「福島県漁業者の意思として処理水の海洋放出に反対したい」と改めて表明した。その上で、「漁業をやめない、漁業を続けることを国に働き掛けていきたい。これが我々漁業者の精いっぱいの抵抗運動だと信じている」と述べた。

 野崎氏と全漁連の岸宏会長は7日の菅義偉首相との会談で、地上保管の継続など「あらゆる方策の検討」を求めていた。1週間も経たずに海洋放出が決まり、野崎氏は記者団に「数日で決定がなされて非常に残念」と批判した。

 いわき市の清水敏男市長は江島潔・経済産業副大臣との会談で「漁業関係者の理解が得られていない中での方針決定は誠に遺憾。市としても承服できるものではない」と反対を表明。福島市の木幡浩市長は同日、「国民的な理解を得る努力、県外放出に関する取り組みが全く不足している」と政府を批判した。

 福島市の県庁前では約50人が集まり「国民の理解は得ていない」と書かれた横断幕やプラカードを掲げて抗議活動を行った。福島原発告訴団長の武藤類子さん(67)は「海洋放出は被災者が原発事故で受けた苦しみを助長する。国や県は漁業者や県民の反対に耳を傾けるべきだ」と憤った。

 一方、原発立地町の首長らは政府方針に一定の理解を示した。梶山氏との会談で、双葉町の伊沢史朗町長は風評対策などを求めた上で「この方針をしっかりと進めて」と容認した。

 大熊町の吉田淳町長も「ALPS水の処分は、廃炉行程の中で避けては通れない作業の一つ」。相馬市の立谷秀清市長も「いずれ何らかの判断をせざるをえなかったことは重々理解する」と認めた。

 県内の各自治体の意見が分かれる中、内堀雅雄知事は同日、梶山氏と県庁で会談。ただ、自身の考えは示さず、「処理水の問題は県の復興にとって重く困難な課題。県として基本方針について今後精査を行い、改めて意見を述べる」と述べるにとどめ、会談は6分で終了した。(古庄暢、滝口信之、力丸祥子、飯島啓史、長屋護、佐々木達也、笠井哲也、荒海謙一)

東京電力福島第一原発の処理水放出の方針決定までの経緯

2011年

 3月 原発事故発生。県漁連が沿岸漁業を自粛

 4月 高濃度汚染水の海への流出が判明。建屋内にたまる高濃度汚染水の保管場所を確保するため、東電が低濃度汚染水を海へ放出。韓国やロシアなど海外から懸念が相次ぐ

 同月 基準超の放射性物質が検出され、県沖のコウナゴが出荷停止。国の出荷制限は最大で43魚種44品目に拡大

12年

 6月 県漁連が試験操業を開始

13年

 3月 高濃度汚染水から大半の放射性物質を取り除くための多核種除去設備(ALPS)が試運転開始

 4月 地下貯水槽からの汚染水漏れが発覚

 8月 政府が建屋周辺に流入する地下水を遮る凍土壁の費用負担を表明。地上タンクから事故後最悪レベルの300トンの高濃度汚染水が漏出

 12月 国際原子力機関(IAEA)が基準値以下の汚染水の海洋放出を助言

14年

 5月 原発建屋周辺への地下水流入を抑えるため、地下水バイパスが稼働

15年

 8月 県漁連の要望に対し、東電が処理水について「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と書面回答

 9月 浄化処理した地下水を海へ放出するサブドレン計画が稼働

16年

 3月 凍土壁の運用開始。建設費は約345億円

 11月 処理水の処分方法を検討する経済産業省の小委員会が発足

20年

 2月 経産省小委が海洋放出を有力視する報告書をまとめる

 同月 県沖海産物の出荷制限がすべて解除

 3月 浪江町議会が海洋放出反対の決議を全会一致で可決

 4月 放出案について、政府が福島市で第1回の「意見を伺う場」を開催。全国の業界団体の関係者なども対象に10月までに計7回開く

 9月 双葉、大熊、楢葉の各町議会が国に処理水の早期処分を求める意見書を可決

 10月 全漁連と県漁連が国に海洋放出反対の要請書を提出

21年

 3月 県漁連が試験操業を終了

 4月 菅義偉首相が全漁連の岸宏会長らと会談。政府が海洋放出の方針を決定