がん教育、経験者が広げる 児童「イメージ変わった」

伊藤良渓
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 2人に1人が罹患(りかん)するがんに対する知識を持ってもらおうと、今年度から中学の授業で「がん教育」が必修になった。茨城県は小中高の公立学校の実施率が約100%を達成しているがん教育の先進地。がん経験者の団体が、語り手の育成や行政との連携に力を入れ、普及に尽力してきた一方で、人手不足や講師の質の確保など課題もある。(伊藤良渓)

 「がんと聞いて、何をイメージしますか?」

 昨年11月、小美玉市の小学校で志賀俊彦さん(45)は子どもたちにこう問いかけた。「死んじゃう」「怖い病気」。こんな答えを聞いて、志賀さんは自身の闘病経験を語り始めた。

 25歳でステージ4の肝臓がんが見つかった。告知の瞬間は「親より先に死ぬなんて、親不孝だ」と自らを責めた。病室まで、どうやって帰ったか覚えていない。布団をかぶって泣いた後、思った。「死にたくない。体の中で何が起きているんだろう」と。がんについて学び、そのお陰で医師とよく話し、納得できる治療を受けられた。「がんになったことは変えられない。でも今どうするかで未来は変えられる」と語りかけた。

 心の支えになったのは、毎日手作りの弁当を持ってきてくれた家族や友人のお見舞い。「たわいのない会話をするだけで、気持ちが楽になった」

 2児の父になった今、土木関係の仕事をしながら水泳にのめり込んでいる。家族旅行も兼ねて、毎年遠征に出かけるのが楽しみだ。「生は大事。死はいつもそこにあるんだとも。当たり前の未来はない。自分や周りの人ががんになっても、諦めないで」と伝えた。

 当時小学6年の古矢みつきさん(12)は「がんのイメージががらっと変わった。未来を考える機会になりました」と話した。

 がん教育は、検診や治療法、患者の生活などの正しい知識を学び、健康と命の大切さを知ってもらう狙いがある。がん経験者や医療関係者、教員らが講師を務めている。中学校は今年度、高校では22年度から新学習指導要領に基づき始まる。小学校では、約半数の学校で実施されているという。

 志賀さんは約20人のがん経験者でつくる「茨城がん体験談スピーカーバンク」(info@iba-gan.jpメールする)の代表だ。母体は患者会だが、18年に、社会とつながって命の大切さを知ってもらおうと仲間と講演活動を始めた。

 茨城は、がん教育の実施率が例年ほぼ100%に達している。全国の小中高の実施率は61・9%(18年度文科省調査)だが、17年度は県内の公立小中高で実施率100%を達成した。志賀さんらが県と協力し、早くから学校での講演活動を行ってきたからだ。

講師の人手不足に課題、「質の確保」も

 命の大切さを伝える上で、がん体験者らによる授業が効果的だとして、文部科学省は体験者などの外部講師の活用を推奨している。だが、授業の割合は伸び悩んでいる。

 18年度に外部講師を活用した学校は全国で約8%。県内の公立校も、19年度で小学校は27%、中学校は33%、高校は14%にとどまる。

 県は教員向けの講習でバンクの利用実績を紹介するなど、周知に努めているが、志賀さんは「どこに相談してよいかわからない、という教員の方はまだ多い」と指摘する。

 バンクは、教員らに授業のイメージを持ってもらおうと、講演例を掲載した冊子を毎年作成。昨年は県内の全中学校に配布し、今年度は県内のすべての高校にも配布する予定だという。

 講師の人手不足も課題だ。志賀さんは「体調に不安を抱える人もいる。活動はボランティアなので、仕事や家庭の事情に左右される。人手がほしい」。

 がん体験者の団体は、質の確保にも知恵を絞る。

 志賀さんのスピーカーバンクでは、互いに模擬授業を確認し合う。「こうすれば治る」という決めつけをしないこと、難しい医療用語はなるべく使わないことなどを徹底し、授業のレベルを一定に保っている。

 鹿児島県でがん教育を行う「がんサポートかごしま」は、授業をするがん体験者向けの研修を実施してきた。オンラインでの研修も開講し、ノウハウを伝えている。

 三好綾(あや)理事長(46)は、講師と学校側が事前に打ち合わせ、授業の中で配慮すべきことを把握するのが大切だと訴える。「例えば、がん患者の家族が授業を聞いている可能性もある。講師は好きなように話すのではなく、様々な配慮が求められている」