中国「脱貧困」は本当か 農村調査20年の東大教授語る

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聞き手・小早川遥平
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 農村部などで貧困人口をゼロにする「脱貧困」の目標を達成した――。中国は昨年末にこう宣言し、今年3月の全国人民代表大会(全人代)でも大々的にアピールしました。中国では都市部がどんどん発展する一方で、それを支える出稼ぎ労働者を送り出す農村部との格差がよく問題になります。古くは毛沢東時代の戸籍制度の違いに由来する格差や貧困は、もう過去のものになったのでしょうか。農民層に国の政策への不満はないのでしょうか。20年以上にわたり中国の村々でフィールドワークを続け、当事者の目線から農村問題を研究している東京大学の田原史起教授(農村社会学)に聞きました。

 ――中国が「脱貧困」を宣言しましたが、どう受け止めていますか。

 中国政府が目標の達成に相当力を入れてきたことは、間違いありません。中国ではレッテルを貼ることを「帽子をかぶせる」という言い方をしますが、貧困もレッテルの一つで、「貧困県」や「貧困村」、「貧困戸」という帽子をかぶせられた県や村、世帯を少しずつ減らしてきました。今回も「帽子を脱ぐ」という表現で、脱貧困を達成したことが報道されています。

 実態としても、政府がメンツをかけて貧困世帯への補助金などの資源を投入しているので、ひどい貧困がたくさん残っているのにうその報道をしているとか、貧困が解決したことにしている、ということはないと思います。

 ――1人あたりの年収を4千元(約6万6千円)以上に引き上げることが一つの基準になっているようです。

 一概には言えませんが、最低生活保障として村の中の困っている人たちにお金を配ったり、子どもがいないお年寄りには「五保戸」といって、衣食住や葬式を保証したりする制度があります。政府の資金が様々な形で末端まで入っているので、貧困のために餓死するリスクは中国の農村ではとても低くなっています。

 ――目標達成は対外的なアピールなのでしょうか。

 中国の内政を考えたときに、この10~15年間、農村問題は重点中の重点でした。2002~12年の胡錦濤(フーチンタオ)政権以来、中国政府は農村の生活の底上げを図ってきました。12年に始動した習近平(シーチンピン)政権はさらに一歩進めて、公共サービスや教育、医療で都市との格差を縮めていこうとしています。海外に向けて成果を誇るということではなくて、やはり農村問題は内政の重点であるということを押さえることが大切だと思います。

 ――農村が安定しないと国が安定しないということでしょうか。

 そうです。中国の場合は選挙がないので、政権交代で問題が解決するというパターンが存在しません。社会の混乱の元がないか、もめ事を起こしそうな人がいないか、県レベルの政府が農村を常に見張っています。変なことがおこりそうになるとあらかじめ芽を摘んでいるのです。

 ――そうした中国の農村で長くフィールドワークを続けてこられましたが、もともとはどういう理由からだったのですか。

 中国は大きな国なので、都市部の「点」だけを見ていては周囲に広がる農村のような「面」が見えてきません。日本では得てして、点の部分で起きたことが強調されて伝えられる傾向があります。メディアで取り上げられる衝突やもめ事はそれ自体は本当なんだけれども、その他の大部分では何も起きていない、ということがよくあります。

 また、政府や知識人が外からの目線で農村を語ることがあっても末端の人たちの声が聞こえてきづらく、認識の偏りがあるとずっと思ってきました。なので、私はあえて何も起きていない農村に分け入って研究を続けています。

 ――中国という国で自由に研…

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