人口減少、暮らし守れるか、総合病院の取り組み 岐阜

山野拓郎
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 住み慣れた地元で暮らしたいと願う住民の思いに、地域医療は応えていけるのか。人口減少、高齢化が進む岐阜県白川町にある唯一の総合病院「白川病院」では、医師不足の中、命を守る取り組みが続く。

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 「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」

 新型コロナウイルス対策で窓を少し開けた診察室。1歳と2歳の子どもを連れて受診した具志堅真実さん(27)に、小児科医の近藤直実さん(73)が笑顔で話しかけた。

 「話しやすくて優しい先生。町内で小児科にかかれるのは本当にありがたい」と具志堅さんは話す。

 近藤さんは岐阜大学で医学部長を務めた。「今度は自分が一医師として地域医療に携わりたい」と月2回、名古屋から通う。町内の子育て支援センターで若い母親たちの相談に乗ることもある。

 センター長の安江万美子さん(51)は「近所のおじいちゃんみたいに優しいので、みんな和気あいあいと相談できてありがたいです」。

 1990年に約1万2千人だった白川町の人口は現在約7800人。65歳以上が人口に占める割合(高齢化率)は2015年時点で43・0%。県内平均の28・1%を大きく上回る。

 有識者らによる民間研究機関「日本創成会議」(座長・増田寛也総務相)が14年、人口減少によって40年までに存続困難になるとする「消滅可能性都市」にも名前が挙がった。

 午前8時、白川病院に町内や近隣の東白川村などを巡回して患者を乗せてくる病院のバスが到着する。

 降りてくるのはほとんどが高齢者。70代女性は「昔はバイクでどこにでも行っていたけれど、今は免許を返納した。路線バスは本数が少ないし、タクシーは高いからなかなか使えない」。

 民間の路線バスで白川病院前に止まる路線は、1時間に1本もない時間帯がある。路線によっては午後3時台に最終バスが出てしまう。見かねた野尻真院長(72)が、病院独自でバスの運行を決断。多い日で1日8路線運行する。

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 内科、整形外科など13科に加えて歯科もある白川病院は、野尻院長の父元広さんが1946年に旅館の一室を使って診療を始めたのが出発点だ。元広さんは体調不良をおして仕事を続け、45歳で亡くなった。15歳で父を失った野尻院長は「地域医療を守る」という父の思いを受け継ぎ、デイケアや訪問看護なども手がけて「しらとぴあ」と名付けた「地域包括ケアシステム」の実現をめざし、住民の健康づくりのために病院主催の様々なスポーツ大会も開く。

 だが、病院を支える常勤の医師は野尻院長を含めて4人。都市部の大きな病院で最先端の医療に触れたいと考える若手の医師は、なかなか来てくれない。野尻院長は、岐阜大や母校の関西医科大(大阪府枚方市)から応援をもらうなど人脈をフル活用して非常勤の医師を確保。患者に配るA4判の「週間診療表」には多くの医師名が並び、まるでパッチワークのようだ。

 医師の絶対数の不足のほか、医師の偏在も課題だ。

 県が昨年まとめた医師確保計画では、2036年の医療需要は17年から4%増えると推計されている。

 県の人口10万人あたりの医師数は全国平均を下回り全国37位(18年)。県庁所在地の岐阜圏域の人口10万人あたり医師数が全国平均を上回る一方、中濃圏域を含む他の圏域は全国平均を下回る。県内でも医師が都市部に集中している形だ。

 日本医師会が昨年発表した「医師の副業・兼業と地域医療に関する緊急調査」によると、医師の兼業や副業について全国の国公立や民間病院などに聞いたところ、「就業規則により自院以外での勤務は認めていない」とする医療機関が11・5%あった。「病院長が許可した場合のみ認めている」が48・9%で、「特段の規定はなく、各医師の自由意思に任せている」は30・8%にとどまる。

 「国公立病院ではすでにアルバイトはほぼ禁止されている」という声も寄せられた。地方公務員公立病院の医師の場合、兼業には任命権者の許可が必要だと法律で定められていることもある。

 野尻院長は数年前から、「地域医療貢献日」という制度を提案している。地域医療に志がある医師が週に1回、自分の好きな場所で働けるようにする。「都市部の公立病院の医師が地域医療に参加できるようにしてほしい。常勤でなくても、志のある医師が集える体制を作れば地域医療を守れる。『住み慣れた地元で暮らしたい』という地域の人の願いに応えたい」

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 団塊世代が75歳以上になる2025年に向け、国は「地域医療構想」を制度化した。少子高齢化が急速に進む中で限られた医療資源を有効活用するには、病院の再編統合や役割分担の見直しは避けられない。

 一方、地域医療構想については、病床数削減に向けた「数合わせ」が優先されているという意見もある。19年に厚生労働省が、再編統合の検討が必要だとして岐阜県内の9病院の名前を公表した際には、「地域の実情を反映していない」と地元から戸惑いや反発の声が出た。

 誰もが住み慣れた地域で人生の最期まで暮らし続けられる医療、介護の態勢を整備するには、効率や経済合理性だけでは測れぬ地域の実情や住民の思いに向き合うことが必要ではないだろうか。(山野拓郎)